君を――したい
04
04.君の傍にいたい
”一人”でいたいと願う、君の気持ちはよくわかる。
けれど、”一人”というのは、とにもかくにも生き難い。
”群れ”を臆病者とは嘲笑えない。
例え、人が征服した土地であっても……いやだからこそ、狩るモノと狩られるモノはいるのだから。
君が”一人”を望んでも……
私は、――君の傍にいたい。
* * *
黒板に席順が張り出されている。
担任はまだ来ていない。自分の席に座って待っていろということらしい。
運が良いことに、席は窓側で、研磨の後ろ。「デキスギだな」と胡散臭げ笑う黒尾君が目に浮かぶ。
私と研磨は大人しく席につく。
騒がしい教室の中、私達に会話はない。
研磨に至っては、携帯ゲーム機を取り出し始めた。
私は黙って後ろから、その様子をぼんやりと眺める。
「あれ? 私の席ないじゃん!」
「ホントだ。もう一年やりなおしなんじゃないの?」
「んなわけないじゃん! 先生に文句言ってくる!」
ドタドタと教室から、女子が駆け出て行った。
同じクラスの女子のやりとりを見て思う。
女子とは群れる生き物だ、と。
私と違って他の子らは、1年2年で面識があり、交流がある。
この学校で生活を送るのだから、自ら進んでクラスの女子に話しかけるのがいいのかもしれない。
(……でも、いいや)
そんな気にはなれなかった。
「……あのさ」
目の前の黒髪が揺れる。
研磨が振り返って、私を見る。
視線を机に落としたり、私に向けたりと忙しい。
「クラスの女子と話してきた方がいいよ」
研磨の言わんとすることはわかる。
女子は、群れてなければ生きにくい。
だけど、
「面倒くさいから、いい」
その生き方はざっくりと切って捨てた。
(研磨の傍にいられれば、それでいい)
「ここで、研磨がゲームクリアするの見てる」
そう言うと、彼は少し眉をしかめた。
「見てられると……落ち着かない」
「じゃ。がんばって空気になる」
「意味わかんない」
ポツポツと言葉を交わし始める。
「おれ、あんまり目立ちたくないし……一人でいる方が楽」
「だろうね」
目立ちたくないのも、一人が楽なのもわかる。
けど……。
「研磨、知ってる? ”一人”って目立つんだよ」
ハッとした猫目が私を捉えた。
賑やかなだけが、目立つわけじゃない。
クラスで”一人”は目に付きやすい。
そして、”一人”は狙われやすい。
人間に限らず、自然界でのお約束だ。
「……目立つのは、嫌だ」
口を尖らせた彼が、ちょっと可愛いらしかった。
「しょうがないから、一緒にいてもいい」
「また、そーいう言い方する」
からかい混じりに笑ってみるが、彼には全く伝わらないようで、再びゲーム機に視線が落ちる。
(一歩くらいは距離が縮まったかな)
研磨の背を眺めていられれば、それでいいかと思った。
けれど、今は向かい合わせ。…………視線はゲーム機だけど、気にしない。
再び、私達の間に沈黙が降りる。
不思議と、会話がなくても重苦しくはない。
相変わらず、私達の外はガヤガヤと騒がしい。
「ちょっと先生ー。席がないとか、ヒドイんじゃないですかー。イジメですよ。イジメ!」
「いやぁ悪いな。先生も春休み前に、ちゃんと確認したんだけどなー」
ガタガタと、担任らしき人が机と椅子を一セットを運び入れている。
やがて、担任は黒板に貼りだしている座席表を見て、「あ」と声を上げた。
「あ、そうか。転校生がいたんだった。それで足りなかったんだな」
ざわめく教室。
生徒達がキョロキョロとあたりを見回す。
「……えーと、狐爪の後ろが転校生のだな。
自己紹介は今からホームルームでクラス全体でするとして、みんなも彼女が困ってたら助けてやれよー。はい。とりあえず席に着けー」
何人かの生徒と目が合う。
……なぜかギョッとされた。
(私、そんなに影が薄いのかな)
そういえば、見慣れないはずである私が教室に入ってきたのに、誰も気に留めなかった。……ちょっと悲しい。
ふと、研磨を見やれば何やら考え込んでいる様子。
「……さ。おれより目立たないヤツだね。……いいな」
少し妬ましげに言う。
……こんな扱いが、羨ましいのだろか?
「目立たないなら、傍にいても平気でしょ?」
複雑な気分のまま、適当に笑って流した。
君が”一人”を望んでも……
私は、――君の傍にいたい。