君を――したい

 君という存在



※研磨視点


 隣に越してきたという子は、一目で”変”だと思った。
 見た目とか性格がとか言うんじゃない。しいて言えば雰囲気が。

 まるで、同じ人間なのに、異星人のような違和感。
 彼女1人だけが違う色をしているような気がする。……なんだか、怖い。

 けれど、無条件に安心してしまう。……理由は、よくわからないけど。

 得体の知れないうすら怖さと、理由のない安堵が入り交じり、どうしていいかわからない。

 が声をかける度に、
 が傍に近づく度に、
 差し伸べられた手を、払い退けたくなる。

 本当は苦手だけど、クロに言われてから、できるだけ目を見て話すようになった。
 顔をあげて見えた彼女の目は、おだやかで、母さんやクロのそれとよく似ている。

 だから、差し伸べられたその手をとる。 繋いだ手はいつも、あたたかい。

 どうしてか落ち着く。……でも怖い。

 おれは――あの子が怖くてたまらない。


  *  *  *


 ある日、クロが「学校終わったらバレーをやる」と言い出した。
 面倒くさいけど、家にいても押しかけてくるのがクロだ。公園のベンチに腰を下ろし、ゲームしながらクロとを待った。

 額をつぅと生暖かいものが伝う。
 袖で拭ったそれは、赤。

 来る途中、転けた時に切ったらしい。……ゲーム機が壊れなくてよかった。血ならそのうち止まるから。

 錆びた鉄の匂い。別に気にならない。
 なのに……

「研磨! 血が血が血がぁぁぁ!」

 悲鳴混じりの声に驚く。
 いつの間にかが来てた。

(……気がつかなかった)

 目の前で慌てふためく彼女を、他人事のように眺める。

(……おおげさ)

 やがて「家へ戻ろう」とベンチから引っ張られた。

 くらりと目の前が暗くなる。
 支えてくれた手が、肩が、あたたかい。

(ちょっと、マズイかも)

 クロが来るのを待とうと思った。
 けれど、どうしてこんな行動に出たのか、がおれを背負おうとする。

(いや……それは無茶だよね)

 背負って帰るには、遠い距離。

「……いーよ。おろして。……そのうち歩けるから」
「喋ってる余裕あるなら、傷をしっかり抑えてて! 文句は後でいくらでも聞くから、今は黙っておぶられてて!」

 気迫に負けて黙る。
 今までの穏やかな瞳なんて、どこにもない。

(……もーいいや)

 が得体が知れなくて怖いとか、背負って帰るのは無謀とか、もうどうでもいい。

 の首筋を汗が伝う。
 おれの額から落ちた血が、彼女のうなじをジワリと染める。
 汗と血が混じり合うのを、うすら目で見ていた。

(……赤色だ)

 くらくらする頭で、ふと思った。

『朱に交われば赤く染まる』

(このまま赤色に染まればいいのに)

 違う色。
 同じ色に染まってしまえば、得体の知れない怖さなんてなくなるかもしれない。もっと安心できるかもしれない。

 だって、

(今、こんなに落ち着く)

 重たい頭をそのまま、の首元へ落とす。

 汗と血の混じった匂い、あたたかい背中、彼女の鼓動。
 それら全てが心地良い。



 ――もっと同じ色に染まればいいのに。

 眠気に負けて、おれは瞳をとじた。



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