君を――したい

05

05.私は君を助けたい

 どんなに面倒くさそうだったり、嫌そうだったりしても、譲れないことはある。
 私は君が大事だから。

 嫌だと言われてもいい。

 私は――君を助けたい



  *  *  *


 学校が終わってから、研磨と黒尾君の3人でバレーボールをすることになった。
 言い出しっぺは勿論、黒尾君。
 しぶる研磨を、彼はゴリ押しで了解させた。
 それでも了解したのだから、研磨も本当に嫌なわけじゃない、と思う。


 各自、家に帰って荷物を置いて公園に集合とのこと。

 私は休みだったクラスメイトにプリントを届けてから、公園に向かった。
 研磨には「先に行って」と伝えてある。

 だから、帰り道で別れてから公園までの短い間で、「どーしてこうなった?」と聞きたい。

 公園にはポツンとベンチに座った研磨が一人、手元のゲーム機を操り遊んでいる。
 それはいい。いつものことだ。
 けれど……

(なんで頭から血を流してるの!?)

 額から流れる血が目元にきて、鬱陶しかったのか、袖元で拭うと、構わずゲームを続ける。

(そんな場合じゃないでしょぉぉぉがぁぁぁ!)

「研磨! 血が血が血がぁぁぁ!」
「え……?」

 慌てて駆け寄り、血の出ている箇所を見る。
 私のあわてふためく行動に、研磨はぎょっとして、ゲーム機から顔を上げる。

「何を吞気にゲームしてるの! 血がダラダラと怖いことになってるよ!」
「あー……うん。さっき転けてちょっと切れたっぽい。別にそのうち止まるし」

 あっけらかんと言う研磨。

(駄目だ。話にならない)

「ゲーム終わり! ほら片づけて!」

 無理矢理終わらせて、研磨の鞄にゲーム機を突っ込む。
 私はポケットからハンカチを出して、傷口に抑えつけた。

「痛い。おれ痛いの嫌いだ」
「じゃあ自分で抑えて! 一度、家に帰るよ!」

 吞気にゲームしてる場合じゃない。

(はやく手当しないと!)

 研磨の手を取り、ぐいっと引っ張り起こす。
 仕方なく腰を上げた研磨だったけど、ふらりと、その身体が揺れる。

「ちょっ! 大丈夫!?」
「……ふらふら、する。目の前まっくらで、見えない」

 くてん、と私の肩に頭を預け、支えにしたまま動かなくなる。

(……これはマズイ)

 背筋を汗が伝った。
 黒尾君が来るのを待ってなんかいられない。

 男の子にしてはまだまだ小さい身体。
 それを、よいしょとおぶさる。……ゲーム機が入った鞄も一緒に。

「……いーよ。おろして。……そのうち歩けるから」
「喋ってる余裕あるなら、傷をしっかり抑えてて! 文句は後でいくらでも聞くから、今は黙っておぶられてて!」

 威圧で黙らせて大人しくさせた。
 謝るのは後でいい。

 私は研磨をおぶったまま家へと向かった。


  *  *  *


 家までは、それほど遠くないハズなのに、ずいぶんと遠い。
 汗が額から首へ背中へと次々流れていくけれど、そんなことを気にしていられない。
 背中にいる研磨は、先程から何もしゃべっていない。
 力なく垂れた首が、うなじ辺りに預けられている。

 汗の臭いと血の匂いが混じり合って、私まで、くらくらする。

(研磨の馬鹿!馬鹿馬鹿馬鹿!)

 自分を鼓舞するように心の中で叫ぶ。


 やっと着いた研磨の家。
 手がふさがってる私は、玄関前で叫んで、おばさんを呼んだ。

 鬱陶しいと嫌がられてもいい。

 私は――君を助けたい。



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