君を――したい

06

06.君を甘やかしたい

 今まで懐いてなかった子が寄ってきたら、嬉しくて嬉しくてたまらない。
 だから、ついつい砂糖菓子のように甘くなってしまうのは仕方のないこと。

 私は――君を甘やかしたい


   *  *  *

 公園のベンチに2人の影。
 一人は私、もう一人は研磨。
 
 研磨はベンチに腰かけて、ゲーム機から視線を動かさないまま、もくもくと手を動かしている。
 私は特にすることがないので、ゲーム画面を覗き込んでプレイの成り行きを見守る。

(……相変わらず上手)

 こてん。
 ふと、肩に研磨の頭。
 いきなりで驚くものの、肩から頭がずり落ちないように身動きはとらなかった。代わりに問いかける。

「……えっと、どうしたの?」
「頭重い。支えてて」

 そりゃ、同じ姿勢でゲームしてれば、そうなる……けど。
 ゲームの為に頭を支えてやるほど、私は研磨に甘くない。……甘くはないが、

(…………どういう心境の変化?)

 今まで、話しかけたら応えてくれるものの、どこか一歩引いているような、余所余所しさがあった。
 私から手を引くとかはあったけど、研磨の方から私に関わってくることはなかった。残念なくらいに。……だから。

(このパターンは初めてだ。……どうすればいいかわからない)

 ピシィッと固まってしまい、すっかり断るタイミングを逃してしまった。
 すぐ目の前にサラサラの黒髪。首元が少し、くすぐったい。

 なんとなく研磨の方を見るのが恥ずかしくて、視線を泳がせた。
 ふと、視界に白と黒の2匹の猫。茂みの中からジッとこちらを見つめていた。

「研磨! 猫がいるよ」
「……そう」

 全く興味がないようで、私の肩に頭を預けたまま動かない。ただ、ひたすらゲームを続けていた。
 頭をどけてくれるかなと、少し期待したけど無駄らしい。

(ちょっとは、はしゃぐとかすればいいのに…………それも変か)

 見れば猫たちは、まだこちらの様子を伺っている。

(……何か持ってたかな)

 ガサゴソと自分の鞄を漁る。
 持参してきたお菓子を見つけると引っ張り出した。
 その拍子に研磨の頭が少しずり落ちる。

「あんま動かないで」
「あ、ごめん」

 研磨が居心地悪そうに、ぼやいたので、つい謝ってしまった。

(あれ? 私が謝るとこ? ……ま、いっか)

 取り出したお菓子は、アラレと小魚が一緒に入っているものだった。
 小魚だけを取りだし、猫の方へと手を差し出す。

「おいで」

 猫たちは鼻をヒクヒクと動かしている。どうやら食べ物の匂いがするらしい。

(いい鼻してるなぁ)

 猫らしい仕草に、どうも心がなごむ。

「何してるの?」

 肩から重さが消えたと振り返れば、顔を上げた研磨が身を乗り出して手元のおやつを見ている。

「駄目だよ。こういうのあげちゃ」

 研磨は手を伸ばして、私の手にのった小魚を奪おうとする。
 ぐっと近付く距離に、驚く。
 手から小魚が、こぼれ落ちた。

「「あ」」

 ザッと一陣の風のように走り抜ける白と黒。
 零れ落ちた小魚は、あっとい間に猫たちの口の中へと収まった。

「あー……食べちゃった。よくないのに」

 眉をよせジト目で見てくる研磨に、なんだか罪悪感のようなものがヒシヒシとわく。

 そんな私達にお構いなしに、猫たちは早々と茂みへと消えてしまった。
 愛想も何もあったもんじゃない。……少し残念だ。

「エサもらった後に、愛想が良い野良猫は少ないよ」

 研磨は座り直すと、何事もなかったように、また頭を私の肩へ置く。

「……なかなか良い態度してるよね」
「猫って、そういうものだよ」

 また肩が重くなった。
 けど、どける気にはならなかった。

(……研磨を甘やかしすぎだ)

 研磨の為にはならないし、よくないんだろうなと思う。……けど、

 頭を預けて、すぐ隣でくつろいでる研磨を見ると「ま、いっか」って思えてしまう。

 私は――君を甘やかしたい


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