隣のあいつは憎いヤツ
出会い頭にあかんべー
父さんの都合で引っ越した。
珍しいことじゃない。よくあることだ。
ひょっこりと自分の部屋の窓から顔をのぞかせると、隣の家には私と同い年の子がいた。
薄水色に近い銀髪、少し切れた目をしていて、冷たい感じがするけど、きれいな顔立ちをした美少女だった。
その子は私に気が付き、互いに目があった。
瞬間、その子は眉を寄せ、カーテンを閉めてしまった。
じーっと見ていた私にも非はあるが、ずいぶんと感じの悪い子だ。
ムカムカした気持ちで、その日一日は終わった。
* * *
次の日、母に嫌々連れられて隣の家にご挨拶に行くことになった。
余所いきの顔で母はお隣さんの奥さんに、あいさつをする。
「昨日、引っ越してきたです。よろしくお願いします。これ、つまらないものですが召し上がってください」
母は、作ってきたパイを差し出した。
奥さんは静かに微笑み、それを受け取った。
「ご丁寧にどうも。……あら? 可愛らしいお嬢さんね。うちの子と同い年くらいかしら?」
ちょうどその時、家の中から声が聞こえてきた。
「母さん。あいさつはもう済んだんだろ。サッカーの相手してくれよ」
あの時の子がサッカーボールを持って出てきた。
「次郎。お客さんの前で失礼ですよ。……失礼しました。この子は次郎。私の息子です」
「……え、……じ、ろう?」
ぽつりと漏らした一言に、次郎と呼ばれた男の子は、目をキッと、つり上げた。
そして、ずんずんと私に近づいてくると、ばんっと両手を付きだして私を押す。
私の方が背は高いが、ぼーっとしていた分、簡単に尻餅を付いてしまった。
「お前、俺の事女だと思っただろ! 目ぇ腐ってるんじゃねーの!」
「次郎! なんて事をするの!」
その後、「すいません」と謝る母親に引きずられて、男の子は家の中へと戻っていった。
最後、ドアが閉まる時、あかんべーをしていたので、同じく私も舌を出す。
すると、いきなり頭に強い衝撃が走る。
「……。あんた何やってんのよ」
1オクターブ低く凄みある声。
どうやら、母のげんこつを食らったらしい。
「私が、悪いんじゃなくて……あいつが……」
「お黙りなさい」
ぴしゃりと言い放たれる。
その後、私もアイツと同じように、家の中へとずるずると引きずられていく。
その日、並んだ二つの家から、同じように子を叱る母親の声が雷のごとく鳴り響いたという。
……絶対、あいつのせいだ。