隣のあいつは憎いヤツ
仲良しなんて冗談じゃない
薄い水色に近い銀髪の美少女のような男の子に、出会って早々突き飛ばされて、あかんべーされた。
腹立たしいことこの上ない。
佐久間次郎とかいうアイツが、今朝、母親に連れられて私の家にやってきた。
にこやかな母親とは違い、あきらかに不機嫌な顔でそっぽを向いている。
不機嫌なのはこっちだというのに、……あぁ朝から最悪だ。
「昨日は次郎が失礼な事をしてすみません。お詫びに今日は小学校までこの子に案内させます」
なんとはた迷惑な。
断ろうと口を開こうとすれば、母親の手が私の口をふさぐ。
「まあまあ助かりますわ。お願いします」
「ほら次郎。仲直りの握手をなさい」
あろう事か両母親は、子供に握手を強要する。
私もヤツも、抵抗に抵抗を重ねるが所詮は子ども。爪をたてたりするも、無理矢理握手させられる。
ヤツの口元がゆがむ。
おそらく、私も同じだろう。
「これで仲良しさんね」
「いってらっしゃい」
手を離そうとするも、両母親から只ならぬ冷気を感じ、ヤツと目配せをし繋ぎ直す。ただし、ゆる〜く。
そそくさと歩きだし、母親の姿が見えなくなった頃、合図もなしに互いに、振り払うように手を離した。
そして、戦いのゴングは鳴り響いた。
先制はもらったとばかりに私は言う。
「ぷっ。ママの言いなりなんて格好わるー」
「ハッ。それはお前もだろう」
ずんずんと歩きながら、火花を散らす。
悔しいが、私は道がわからないのでヤツに付いていく。
「俺はお前を学校まで案内してやる気なんてないんだからな」
ヤツのスピードがあがる。
「あんたのママに言いつけてやる」
「付いて来れないノロマなお前が悪いんだろう」
気が付けば、歩きで登校ではなくなっていた。
全速力で学校まで走っていた。
* * *
ぜぃぜぃと肩で息をし立ち止まっている私を見て、ヤツは正面に立って笑う。
少し息は乱れているが私ほどじゃない。
それがわかって悔しい。
「もうバテたのか。情けないヤツ」
笑い声とともにヤツは校舎に入っていく。
私は体力がつきて校門の前から動けない。
「……ちきしょう」
ぺたりとその場に座り込む。
地面に影が落ちる。
「大丈夫か?」
見上げれば、ライオンのように逆立った髪をした男の子が、手を指しのばしてくれている。
心配そうに私の顔をのぞくので「だいじょうぶ」と言って手をとり立ち上がる。
「見かけないな。転入生か?」
「うん。心配してくれてありがとう。迷惑ついでに職員室教えてくれてくれたら助かるんだけど」
「いいぜ。ついて来いよ」
この親切ぶり、どこぞのバカにも見せてやりたい。
彼に連れられて私は校舎へと入る。
職員室の前まで来ると彼は「それじゃ」と言って自分の教室に足を向ける。
「あぁそうだ。俺は源田幸次郎。よろしくな」
「……次郎?」
ヤツの存在が脳裏をよぎる。
それまで上機嫌だったのが一気に急降下した。
「いや、幸次郎だ。源田幸次郎」
「あぁ、ごめん。嫌なヤツを思い出して……。ありがとう源田くん。助かったよ」
少し訝しげにするも、彼はそのまま教室へと歩きだした。
彼と同じクラスならいいなと少し思いながら、私は職員室のドアを叩いた。