隣の

根っこなんて見えない

「源田ー! サッカーしようぜ!」


相変わらず、あわただしく教室に入ってきた。

……また来た。
一体、一日に何回来たら気が済むだろう。
この佐久間次郎という男。もしや、源田くん以外に友達いないんじゃないだろうか。


「悪いが今日は日直だ。もう少し待ってくれ。、そっちは終わったか?」

「……チッ。こいつとかよ。あと、こいつに任せてサッカーしようぜ」


聞こえてるんですけど。


「……佐久間」

「…………わかってる。おとなしく待っててやるよ」


ヤツはギロリ私の方を見て、空いている席に腰を下ろすと頬杖を付いた。

その態度にムッとして、私は無言で源田くんを見る。
すると彼はため息一つして首を横に振る。

根は良いヤツだって源田くんは言うけどさ。
私には根っこの部分なんて見えないわけで、嫌なヤツにしか見えない。


  *  *  *


帰り道。
源田くんはアイツに誘われて河川敷でサッカーを始めた。

源田くんには別れを告げて、私は一人家へ帰ろうとする。
……と、後ろから声がした。


「てめぇ、どこ見てボール蹴ってんだよ!」


ガラの悪いヤツ数人が二人に突っかかっている。
どうやらボールがあたってしまったらしい。

源田くんは謝ろうとするが、佐久間次郎はそうはいかないらしい。
遠目で見てもわかる。売られた喧嘩は買うと顔に書いてある。
源田がなだめるも、アイツはそれを振り払う。


絶対、ガチンコ勝負になるなコレ。


半ばあきれるも、ほうっておくわけにもいかず。
河川敷のコートへと、私は走る。


「ちょっと! なに喧嘩してんのよ!」

「……なんだお前」

「関係ねーだろひっこんでろ」


近くで見るとガラの悪い人たちは、結構迫力があった。
思わず、足が震えた。


あ、ちょっと……まずかったかな。


「……チッ」


聞きなれた舌打ちが聞こえた。

と、同時に、私は腕を引かれて走り出していた。


「逃げるぞ!」


私の腕掴み走るのは、嫌気がさすほど見慣れた薄い水色の入った銀髪。


「横道に入れ!このままでは追いつかれる!」


私の横を駆けるのは、獅子のような髪をした源田くん。
掴まれた腕が痛い。
けれど、振り払うなんてできない。

腕を掴む彼の手から、必死さが伝わってくるから。


  *  *  *


住宅街の狭い横道に入って、ようやく腕を放してくれた。
力が抜けて地面に座り込む。
乱れた息を整えながら、私は彼を見上げた。

私のために腕を引いて走ってくれたであろう、薄水色の入った銀髪の彼を。


「……なんで……」


酸欠で、ぜぃはぁと言ってる私とは裏腹に、彼はもう口が利けるらしい。
そして、


「…………余計なことするな!」


怒鳴り散らすとそのまま走り去っていった。

にわかに上がりかけた佐久間次郎への好感度が、今まで通りに軽やかに下がった。


……余計なこと……って、あんにゃろ。


「気を悪くするな」


私が落ち着くのを待っていた源田くんが、フォローに入ってきた。


「だって!」

「あいつはプライドが高い。基本売られた喧嘩は買うし、絶対に逃げない」


だから、どうした。ただの馬鹿じゃん。


「……けど、お前が巻き込まれそうなのを見て、逃げることを選んだんだ」


ぽん、と頭の上に源田くんの手がのっかる。
なんだか、ほっと落ち着く。


「言っただろ。根は良いヤツなんだ」


こくん。

素直に頷く。


源田くんのおかげなのか。
アイツが目の前にいないおかげなのか。

今は素直に頷ける。