隣のあいつは憎いヤツ

二番目の友達


「……次郎」

慣れない呼び名で呼べば、不愉快そうに、佐久間次郎は視線をよこしてきた。


今夜は彼の家で夕食を頂く事になっている。

しかし、腹の虫は鳴けども肝心の料理はまだできそうにない。
キッチンから響く、私達の母親の談笑。
口ばかり動いて手は止っている。


私達二人はソファーに腰掛け、「待て」状態だ。


「……次郎」


佐久間家なので、彼を名前で呼ぶ。
最初、彼も驚いたようだが、拒みはしなかった。


「俺に言っても無駄だぞ」


無言の意味に気がついたらしい。
じと目で見ていたら、溜め息を一つ。そして立ち上がる。


「……ついて来い」


私の返事を待たずして次郎は部屋を出て行く。
おとなしく彼に従うつもりはないが、ここにいても退屈なので、彼の後に続く。

階段をあがり、ある一室に通された。


男の子らしい青色のものが多い部屋。
ペンギンのぬいぐるみが幾つも飾ってあって、床にはサッカーボールが転がっている。

窓向うには知った部屋、私の部屋が見える。

そう、ここは次郎の部屋なのだ。


「そこ座れよ」


とベッドをさすと彼は鞄をあさり出した。


「ほら」


ベッドに腰かけていると、ぶっきらぼうに差し出されたのは、学校帰りにでも食べていたのか、袋の口が空いたポッキー。

妙に優しい態度に、怪訝に思いつつ、腹の虫が鳴くので素直に受け取る。


「……ありがとう」


会話が止る。

気まずいので、近くにあったペンギンのぬいぐるみをとって抱き締める。

思いの他抱き心地が良く柔らかい。


「良いだろ。俺のお気に入り」


次郎は、ニッと笑って見せた。
その無邪気な笑顔に驚く。


……なんだ。コイツも笑うんじゃん。


「コイツの名前はペンペン。それで、こっちがペン吉。あっちがペン子……」


じつに楽しそうである。






ふと、私の名を呼ぶ。

幸せそうな笑みを浮かべながら。


「お前が困った時、今度は俺が助けてやる。……友達だからな」


どうやら、この瞬間から友達になれたらしい。


「源田の次だけど」


ゴロンと布団に寝転がる。


母親達が部屋を訪れた時には、安らかな寝息が二つ。
優しい手がまだ幼い二人を撫で、はらりと布団かけていった。

足音が遠ざかっていく。


お腹、すいてるのに。


それでも、不思議と今、このままで良いと思ってしまう。

深い深い眠りへと、落ちていった。