隣のあいつは憎いヤツ
初恋は突然に
その日は入学式だった。
慣れない制服を身にまとって、電車に乗っていた。
ガタンゴトンと揺らされて気分が悪い。
これからは毎日、乗らなければならないのに、……死にそうだ。
何とか目的の駅まで保ったが、かろうじてだ。
駅のホームには忙しなく行き交う人であふれている。
隙間をヨロヨロと進むが、立っているのも辛くなり、壁に手をつき、その場にしゃがみ込んでしまった。
ふと、影が落ちる。
誰だろう?と顔をあげたいが、それさえも辛い。
「大丈夫か?」
声の主は背中をさすってくれた。
幾分、楽になったように感じる。
顔をあげると、そこには綺麗な青。
私は、縛られたように動けなくなってしまった。
「そこのベンチまで歩けるか?」
彼は、長い青髪を後ろで一つに束ね、雷門の制服を着ていた。
心配そうに覗き込んでくる顔は、整っていて美しかった。
背中をさすっていた彼の手は、いまだそこにあり、触れられている所が熱くなる。
一目惚れなんて柄じゃない。
そもそも、一目見ただけで好きになる人の気が知れない。
そう、思ってた。この瞬間までは……。
「あ、あの……」
口をパクパクと開け閉めするも言葉が思うように出てこない。
ありがとう。大丈夫だよ。
ごめんね。学校に遅れるよ。
貴方の名前はなんて言うの?
何一つ言葉にならない。
そんな私を見て、相当気分が悪いのだと思ったらしい。
彼は私の腕を肩にまわし、ベンチへと誘導する。
「これを飲むと良い。マシになるから」
自販機で買ったミネラルウォーターを渡してくれた。
その冷たさに驚く。
自分がこんなにも熱くなっていたなんて。
具合が悪いんじゃない。
もう治まってる。
私は……
「そういえば、その制服、雷門のだろ?君も新入生か?」
思うように声がでない私は、必至に頷く。
「俺もだよ。入学式にはちょっと遅れるけど、治まってからの方が良い。俺も傍にいるからさ」
そう、優しさがこもった笑みを向られて、私の心臓はより騒がしくなった。
私は……
恋に墜ちた。