隣のあいつは憎いヤツ
『可愛い』って何?
「ねぇ。どういう女の子が可愛いって思う?」
私の前には、小学校のころ同じクラスだった源田君。非常に困った顔をしている。
因みに、ここは彼の家の彼の部屋。
「相談したい事がある」と言って、休みの日に御邪魔させてもらってる。
「なんで、また…可愛い女の子……なんて聞くんだ?」
「可愛いくなりたいから」
「……誰が?」
「私が!」
どうして、そこで黙るかな!
「……私が、そう言うのは……おかしい?」
怒っているのだが、自分でも、らしくないとわかってるから、声が小さくなる。
なんだか、とても恥ずかしい事をしている気がして、源田君を見れなくなる。
ふぃと視線をそらせば、頭を撫でられた。
「おかしい、なんて思わない。……ただ、も年頃になったんだな」
「……お父さんみたい」
思った事をそのまま口にすると、髪をぐちゃぐちゃにされた。
「ちょっと!や〜め〜て〜!」
彼を見れば、実に楽しそうに笑っている。
「悪い悪い。けどお前は、今でも十分可愛いぞ」
悪いと言っているわりには、髪をぐちゃぐちゃにする行為をやめない。
源田君の『可愛い』は私が求めている『可愛い』ではない。
ときめいて恋してしまうような『可愛い』を私は求めているのだ。
「好みなんて人それぞれだ。俺に聞いても意味がない」
「……でも」
他に相談できる人がいないのだから仕方ない。そう口を尖らせた。
「それとも」と言う源田君の顔から、笑みが消えた。頭の上にあった手が、私の頬を撫でる。
「俺好みの女の子になりたいのか?」
闇に溶けるように低く囁く声に、身体が震えた。
彼の瞳には見上げる私が映っている。いつの間に、距離が縮んだんだろう。
私の顔には、驚きと戸惑いの色が入り交じっている。
彼は……一体、何がしたいのだろう。
……わからない。
わからない。わからない。
「……なんて、そうじゃないんだろう?」
ハッと気がつけば、見慣れた微笑み。
「俺の好みが知りたいわけではないだろう?」
短く頷くと、また髪を掻き回される。
「な。意味がないだろう?」
「そいつの好みを調べれば良い」と最後に助言をくれた。
時は夕暮れ。
僅かに抱いた不安は何処かへ消え去ってしまった。
「ありがとう」と笑顔でお礼を言うと、私は源田君の家をあとにした。
***
「ありがとう」
そう去って行く少女を、源田は複雑な心境で見送った。
「年頃になったんだな…………俺たちは」
彼は携帯を取り出し、メールを打ちだした。
「……とんだお節介なんだろうな」
そうは言うものの、源田はそんな自分が嫌いではなかった。
パタンと携帯を閉じると、彼は視線を泳がせた。
その先は、一つの写真たて。彼と佐久間、が写っている。
冗談抜きで頬を引っ張り合う二人を、源田が止めているところだった。
こうして見ても、写真の中の自分は微笑ましそうに、二人のやり取りを見ているなと、源田は思う。
(それは今でも変らない)
「……お節介は、これっきりだからな、佐久間」