隣のあいつは憎いヤツ

お節介はいらない


「ったく。急に色づきやがって、アイツのガラじゃねぇんだよ」

そう、佐久間次郎は毒づいた。

「あいつだって年頃なんだ。別におかしくないだろ」
「……お前はオヤジくさくなったな」

佐久間にそう返されると、源田は苦笑いを浮かべた。


ここは源田の家、源田の部屋。

部活日でもないとすることが(サッカー以外)ない佐久間は、源田のもとに押し掛け暇を潰していた。
そして、話題は小学校で仲の良かったのことになった。

源田から『に好きな奴ができたらしい』とメールをもらった佐久間は、その後、学校帰りのと家の前で遭遇していた。
その時のの姿を見て、なるほど、今まで無関心だったお洒落というものに気を使いだしたのだと、理解した。
劇的に変わったわけではないが、気にしているのはわかる。
佐久間には、それがあまりおもしろくなかった。

「『可愛く』なっただろう?」

そう口にする源田の表情は、穏やかで温かなものだった。
佐久間は胸の奥がムカつくのを感じた。

「……目が腐ってるんじゃないのか?」
「なるほど。佐久間はそう思わない、か」
「…………」

口元をあげて微笑む源田に、佐久間は眉間にしわを寄せた。けれど、佐久間は何も言い返すことなく、自分の手に視線を落とした。親指と人差し指をすり合わせ、過ぎ去りし記憶を呼び起こしていた。

「……指に、何か付いていたのか?」

源田が不思議そうに首を傾げる。
彼の声に、慌てて無意識にしていた動作をやめ、佐久間は視線を戻した。

「……別に。それより!もうアイツとは学校が違うんだぜ?あんな奴に俺達がわざわざ付き合うことはないだろ?」

『俺達』と言う佐久間に源田は苦笑する。
実際、連絡をとったりして関わりを持ってるのは源田のみで、佐久間は家の前で鉢合わせする程度だった。
言ったら怒るとわかっているので「そうか」と源田は曖昧に流す。

〜♪〜♪〜〜♪

ふと、源田携帯の着信音が部屋に響きわたった。
からのメールだった。

『明日、もし空いてたら、夕飯の買い出しに付き合ってくれない?』

知れず、源田の顔に笑みが浮かぶ。
ふと、手元の携帯に影が落ちる。
佐久間が、覗きこんできたのだ。

「…………あいつ、また源田に迷惑かける気か」
「俺は迷惑だとは思ってない」

きっぱりと返す源田、佐久間は言葉を詰まらせた。

「…………あぁ。そうかよ」
「佐久間。お前とは付き合いが長いから、この前の……の事、伝えたんだぞ」

も大切な友だが、佐久間も源田には大切な友だった。

「は?意味がわからないな。俺はの事なんてどうでもいい」

ふぃと佐久間は顔を逸らした。
わかりやすいヤツだと源田は思う。
けれど、わからないふりをする。

「……なるほど、俺のお節介だったわけだ」
「あぁ。そんなお節介、俺には必要ないね」

その言葉を待っていたと言わんばかりに、源田はニヤリと笑みを浮かべた。
その表情に、佐久間は背筋に冷たいものが走るのを感じた。

「なるほど。『お節介は必要ない』か」

佐久間の言葉を深く深く心に刻み、ややあってから源田はこう言い放った。

「覚えておこう」

佐久間にはそれが「覚えておけ」と言われているような気がしてならなかった。