隣のあいつは憎いヤツ
知らないことが多すぎる
直に日が沈む。
佐久間は自室のベッドに、ゴロンと横になっていた。
『お節介はいらない、か』
『覚えておく』
源田の言葉が嫌な予感を潜ませ、佐久間の頭の中を巡っていた。
「…………けっ、アイツ……源田を使いやがって……」
源田にからのメールがきた時、佐久間はこの上もなく心穏やかではいられなかった。
とは小学生時、一時仲が良かったが、違う中学へ通うと知った時に喧嘩別れをしてしまった(喧嘩別れと言っても、佐久間が一方的に怒っただけのものだが)。
故に、佐久間との関係は、今はただ家が隣というだけの関係だった。
物理的な距離は近くても、言葉を交わすには遠すぎる距離。
源田は佐久間よりも物理的距離は遠くても、携帯で連絡を取り合っている仲だという。
実におもしろくない。
それぞれが携帯を持つようになったのは中学に入ってからで、佐久間はの携帯の番号もアドレスも知らなかった。
「なんで……源田は知ってるんだ」
あいつのメールを嬉しそうに見ている源田の姿が、気に入らなかった。
学校はもう違うのに、家が近くでもないのに、普通に源田を頼ってくるも気に入らない。
三人で一緒にいた時も喧嘩ばかりしていた。けれど佐久間はそれが嫌いではなかった。
源田が誰と仲良くしてようが自分の知ったところではないし、にしても然りだ。
けれど、源田とが二人で仲良くしているのは、気に入らない。
自分一人がノケ者にされた事が悔しいのか、と佐久間は思案する。
窓向こうにはの部屋がある。
レースのカーテンごしでは。ハッキリと向こうの様子を窺い知ることはできない。
女友達が遊びに来ているのか、時折、笑い声が聞こえる。
源田の話だと、なんでも雷門のサッカー部に入ったらしい。「サッカーには興味ない」と言って雷門に行ったヤツが、雷門でサッカー部に入った。
それを知った時、佐久間は怒鳴りに行こうかと思うほど激怒した。
そして何より、知らない事が多すぎたのが佐久間の癪に障った。
の携帯の番号やアドレス。サッカー部に入ったこと。源田と一緒に夕飯の買い出しに行っていること。母親が働き始めて、夕飯は彼女が作るのが日常になったこと。好きなヤツができたこと。雷門で新しい友達と仲良くしている事。
窓向こうからは相変わらず、楽しそうな談笑が聞こえてくる。
「……気に入らない」
カーテンを乱暴に閉める。
それでも、音を遮断するには及ばない。
佐久間はベッドにうずくまり、耳を塞いだ。
「……なんで」
塞いでいても、窓向こうが気になって仕方ない。
「こんなに、近いのに」
どうしたら、この苛立ちを鎮めることができるのだろうと、考えを巡らすも答えが見つからないまま、佐久間は緩やかに眠りへとついた。