隣のあいつは憎いヤツ

楽しいと思わせる天才


!放課後、サッカーしようぜ!」

円堂守と言えば、太陽のような笑顔が印象的なサッカー少年。
今も、ボールを手ににかっと笑ってみせる。

「うん!」

彼の笑顔にはいつもつられる。勿論、良い意味で。

サッカー部に入ってから、私は円堂君とよくサッカーをした。
部員は私と円堂君。そしてマネージャーの秋ちゃん。少数にもほどがあるけど、私はこれといって残念には思わない。

あのヒネクレ屋の佐久間次郎とやったサッカーはただ怖いだけだったけど、円堂君とするサッカーは楽しかった。

あいつが見たら「玉転がし」とか言って鼻で笑いそうだけど、私は好きだ。
サッカーが好きというより「円堂君とするサッカー」が好きだ。
彼は自分の感じる楽しいを、人に伝染させるのがうまいと思う。
彼自身が本気で楽しいと感じる。そして、自分以外にも「楽しい」を伝えたくてするサッカーだから、私は楽しめるのだと思う。

「じゃあ放課後な!」

チャイムとともに、円堂君は席に戻っていった。
風丸君のことが何かわかるかも、という不純な動機で入部したサッカー部だけど、今は本当にサッカーが好きだ。
円堂君ってすごいな。今はまだマネージャーを入れても三人だけの部活だけど、きっと今後、彼に惹かれて入ってくる子がいる。

先生が教室に入ってきて、あたりは静かになる。
放課後が楽しみだと思いながら、私はノートにペンを走らせた。


 * * *


放課後、下駄箱の前で円堂君を待っていたら予期せぬ人物に声をかけられた。

「やぁ。確か……だったか?」

これは、いったい何のご褒美なんだろう。
私の前には空が落ちてきたような綺麗な青。
入学式の日に恋した人、風丸一郎太の姿があった。

緊張のあまり、体が硬直する。
何か言わなきゃと開いた口が、金魚のように開閉する。

ー!風丸ー!遅れてごめん!」

私の石化を解いてくれたのは、明るい声。振り向けば円堂君が走ってくるのが見えた。

「遅いぞ。円堂、お前から言い出したんだろ」
「悪かったって」

なんだろう、話が全く見えない。
風丸君が一緒にいるのはわかる。
なんだろう、状況がわからない私は、一人置いてけぼりをくらってしまった感じがする。

私一人、ポカンとしていると、それに気がついた円堂君が笑顔で言った。

「実はさ!今日は三人でサッカーしようと思って、風丸も誘ったんだ」

その台詞は。私の脳の中で、何度も何度もエコーして響いた。



 * * *


……と、気づけば河川敷のサッカーフィールドにいた。

「…………」

ここまでどうやって来たんだろう、記憶がない。
風丸君と一緒にサッカーができるらしいことは覚えてる。

どうやら、幸せすぎて、意識がどこぞへオサラバしていたらしい。

「おーい!!はじめるぞ!」

何事もなかったように円堂君が私を呼んでいる。
隣にいる風丸君を見ても普通にしている。

私の体は自動で動いていてくれたらしい。ちょっと感動する。


 * * *


!こっちにパスだ!」

円堂君が一緒にいるためか、それともサッカーをしているからなのか、あれほど緊張で話しかけられなかった風丸君と、普通に会話ができるようになった。

どうしよう。今日のサッカーは今までよりも、ずっと楽しい。
楽しくて楽しくて仕方ない!

「ボールを蹴る時は、こうカッとしてドッカーンってするんだ!」

円堂君の説明はいつも面白いけど、よくわからない。

「円堂君、わかるようでわかんないよ」

クスクスと笑っていると、風丸くんも同じように笑った。

「円堂の説明は相変わらずだな。……いいか、丁度足のこの辺にあてるんだ。はいつもちょっと先の方を使っているから……」
「こう?」
「そうそう、良い感じだ」
「風丸君って説明が上手だね」
「ま、円堂に比べたらな」

二人して笑うと、円堂君は複雑そうな顔をした。

風丸君は説明がうまい。そりゃ、円堂君と比べたら誰だってうまいだろうけど、それを抜きに考えても上手だ。
風丸君は要点を押さえた的確なことを教えてくれる。

「よし!もう一回やろうぜ!」

円堂君のやる気に、応えようとしたその時。

「まるで『玉転がし』だな」

昔から聞き慣れた声が、橋の上から下りてきた。
ムカつくほど見慣れた、薄水色の入った銀髪が、風でさらりとなびく。佐久間次郎だった。