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ミニ四駆学園

始まりはぐだぐだ


 ミニ四駆学園。
 その名の通り、将来、レーサーであれ、開発部であれ、ミニ四駆を追求していく者達の集う学園である。

 私は、今日その学園に入学した。


 特に、何もすることもないので、私は一人席についてぼーっとしていた。
 そんな時、一人の男子生徒が話しかけてきた。



「Hey!君はレーサー志望かい?」



 彼はそう言って、私の隣の席に座る。

 サングラスをしていたため、どういう目で私を捕らえていたのかは分からない。

 だが、口元に浮かべている笑みと口調、全体的な雰囲気で好意的だというのは分かった。



 どうやら、一人で席に着いていた私を話し相手にと選んだらしい。

 なるほど、確かに私は特にすることもなく暇だ。彼に付き合うのも悪くない。



「さぁ?どうだろうね。一応サポーターを目指してはいるけど、何しろ私は気まぐれだから。もしかしたらレーサーに進路変更するかもしれないな」

「レーサーへ進路変更か……へぇ、随分と軽いな」

「別に、そういうつもりで言ったわけじゃない。どの分野を目指すにしろ、最初から視野が狭いのは良くないからね」

「フッ。なるほどな」



 幾らか会話をして、そういえばと気づく。

 そう、私達はまだ自己紹介をしていない。

 今、この一時の縁ではない。同じクラスになった以上、これから少なくとも一年間は顔を会わす仲になるのだ。そして、あわよくば課題を手伝ってもらったり、提出物を写させてもらったり……。

 とにかくだ。まずは、名をお互いに告げなければ何も始まらない。



「担任が来るまでの暇つぶしだろうが、それなりに会話した仲だし、これからも縁があるだろう。名を聞かせてくれないか?」

「ブレット・アスティアだ。ま、よろしく」

「私はだ」



 そう言って、私はブレットに握手を求めた。

 彼も快く応じようと手を伸ばしてきた。

 ……が、なぜだろう。今、私は別の誰かと握手している。



「どうも。これからよろしく!」



 と、見ず知らずの赤髪の青年が、満面の笑顔で私の手を握っている。

 当然、行き場のないブレットの手は宙に浮いたまま。



 ……あぁ、すまん。こんなつもりじゃなかったんだが。



「……よろしく。なんだけど……いきなりどなたですか。と聞いてもいいか?」



 赤髪の青年の手をほどきながら、いきなり割って入って来た青年に聞いた。

 だが、私の問いに応えたのはブレットだった。



「……エッジ。いきなり割って入って来るな」

「えぇ〜。いいじゃんいいじゃん。俺、ブレットの大親友エッジ・ブレイズ。俺も同じクラスなんだ。えっと、ちゃんだっけ?よろしくね」



 エッジか。随分とハイテンションなヤツだ。



「っていうかブレット冷たくね?同じクラスなんだから一緒に行ってくれてもよかったじゃん」

「お前に合わせてたらこっちまで遅刻するだろ。道連れはごめんだ」

「ひっでー」



 そう言って、エッジはごく自然な動作で私の隣の席に着いた。

 よって、私の左にブレット、右にエッジとなる。

 ……なぜ、私の隣に来る?ブレットの隣に座ればいいに。



 私の視線に気がついたのか。エッジが私に話しかける。



「ん?なになに。俺のこと気になるの?」

「調子に乗るなエッジ」



 ……まぁ、気になるといえばそうだが……色々と別の意味で。



 でも、ま、なんだかんだと、これからこの二人には一年世話になりそうだ。

 ふぅ。と、一息ついていると、エッジよりもハイテンションでやたら派手な人が……何故か天井から教卓へと登場して来た。

 そう。教卓へ、だ。びしっとポーズまで決めている。



「新入生諸君おはよう!入学早々遅刻しているヤツはいないか!?」



 私達以外の話していた生徒達も思わず黙る。



「よぅし!全員いるな!僕はこれから一年間このクラスの担任を務める……その名もファイターだ!!」



 ぴしっと、何かが軋む音が聞こえた。

 おそらく生徒と担任らしき人との温度差により生じたものだろう。



「……おいおい。まじかよ。あれが俺等の担任?」

「……そう、なんじゃないか?」



 なんとか、感想を言う私とエッジ。

 ブレットに至っては、何も言えず、眉をぴくぴくと動かす始末。

 ……わからんでもない。



「お〜い!元気がないぞぉ!君達の学園生活はまだ始まったばかりだ!そんなんじゃレースが始まる前にリタイアしちゃうぞ!」

「レースって……先生」

「ファイターと呼んでくれ!」



 質問しようとした生徒に向かって、担任…もとい、ファイターはぐっと親指を立ててウインクした。



「……ファイター。俺達まだレーサーとかサポーターとか各部門に別れてないし、このクラス全員がレーサー希望ってわけじゃ……」

「あっまーい!ケーキよりもハチミツよりも甘いぞ!」



 あぁ……熱い……熱すぎる。この担任。



「いいか!ここはミニ四駆のためのミニ四駆の学園だ!レーサーもサポーターも開発部……その他諸々、ミニ四駆を知らずに何を知る!!将来は違う道を歩もうとも、まずはミニ四駆に触れ、ミニ四駆を走らせることからはじまるのだー!!」



 熱い演説に思わず拍手が沸き起こる。

 変な人だけど、言っていることは一応まともだ。



「と、いうわけで自己紹介も兼ねてレースを始めるぞ!マシンはセイバー600を配るからそれを使用するように!今後一年間は使うから、大事にするんだぞ!」

「……なるほど、皆同じマシンを使うから、レーサーとしての力量がもろに出るな」



 ブレットの口元に笑みが浮かんでいる。見ればエッジもだ。

 二人とも随分と楽しそうだ。



「あと、自己紹介用紙を配るから必ず書いてレースの前に提出してくれ!」

「……え?それってまさか……」

「僕が実況しながら自己紹介するから、ちゃんと書くんだぞ!」



 ……それは、恥ずかしい。





 こんな調子で、私のミニ四駆学園生活はスタートした。





 ちなみに、レースは……ファイターの自己紹介を兼ねた実況が恥ずかしくて、レースどころじゃなかった。











やってみたかったレツゴの学園モノです。
最初、好みの問題でクラスメイトはブレットとシュミットにしようかと思ったんですが、調子が良いヤツがいた方がバランス取れる気がしてエッジを入れてみました。

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