ミニ四駆学園
+α
「全く。あの二人どうにかなりませんかブレット?」
珍しく、俺はエーリッヒと二人、喫茶店でお茶などしている。
相談したいことがあると言っていたが、あの二人のことか。
成る程。ま、予測の範囲内だな。
「ははは。まぁ、そう言うなよ。あれがあの二人のやり方だ」
先程から言う『あの二人』とは、他ならぬシュミットとのことだ。
性格が問題か、出会い方が問題か、はたまた両方か。
とにかく二人の仲は悪い。
お互い、顔を見るなり苦虫を噛み潰したかのような顔をする。
そして、そのまま無言で立ち去るなんてことはない。
必ずどちらかがいらぬ一言を零すからな。
勿論、零された方は黙るはずもなく、周囲への迷惑は顧みず低レベルな喧嘩が始まる。
「見ていて退屈はしないだろう?」
「……誰が収拾つけてると思ってるんですか」
「放っておけばいいだろう。優雅に観戦といこうじゃないか」
「他の方々に迷惑でしょう」
相変わらず律儀なヤツだ。
「ま、確かに。あの二人の仲が悪いと、色々と面倒だな」
俺たちはあの二人とは仲が良い。
だが、あの二人は仲が悪い。
となると、普段、つまり日常で俺たちが大変ということだ。
気を遣うつもりもないから、結局いつもこの『四人』になってしまう。
それは、日常にあの二人の喧嘩が組み込まれているわけで、……たまになら別に良い。
だが、日常となると流石に、な。
「Ok。じゃ、あの二人を仲良くさせる作戦でも考えるか」
「具体的にはどうします?」
「そうだな。俺の場合、シュミットと仲良くなったキッカケはレースだ」
「私もです」
「なら、二人にレースでもさせてみたらどうだ?」
「それなら授業で何度かしていますが、……関係が悪化しているとしか思えませんね」
……どんなレースをしているんだ。
レースが駄目となると、どうする?
「案外、ミニ四駆から離れて考えてみるのも手かもな」
「……と、言いますと?」
「無難に……そうだな。二人にデートさせてみるのも面白そうだな」
「……どこが無難なんですか。第一、面白そうってブレットが楽しんでどうするんです。冗談はよして下さい」
「あながち、冗談でもないんだがな」
おいおい、そんな顔をするなよ。
「二人きりのデートはいきなりハードルが高いだろう。ま、初めは俺たち四人でデートということで」
「………………つまり、四人でどこか行くということですか?」
「正解」
自分では見たことがないが、どうやらこういう時、俺は相当意地の悪い笑みを浮かべているらしい。
自分では見れない。が、対峙している人間、エーリッヒを見れば何となくわかる。
「初めから、そう言って下さい」
「放課後の帰りに食事でも誘ってみるか」
あまり期待はできない作戦だが、何もしないよりはマシだろう。
〜が立ち去った後の出来事〜
「だから、どうしてそう相手を挑発させるような事を言うんですか」
「別に……」
あいつが出て行ってすぐ、エーリッヒにすごい剣幕で詰め寄られた。
私は何かしら言い訳をしようとしたが、言葉にならず言い淀む。
……そんなつもりで言った訳じゃなかったさ。
こんなことくらいで出て行くような繊細な人間でもないだろうと、高をくくっていた。
どうせ、いつものように私の嫌みに食い付いてくるものと、軽く言ってやっただけだった。
けど、あいつは出て行った。
繊細であったかどうかは定かではないが、あいつが出て行ったというのは紛れもない事実だ。
……私の一言で。
「何度も言っただろ? 熱くなるなと。お前の悪い癖だ」
ブレットの手が私の肩にそっと置かれる。
力など入れられていないのに、どうして動けないのだろう。
私は静かに視線を落とした。
目に入るのはメニュー表。誰もまだ、何も頼んではいない。
あいつなら何を頼んだだろう。
……そんなもの、私にわかるわけがない。いつも会えば喧嘩ばかりだったしな。
「次は大人しくしていて下さいね」
他にまだ言うこともあっただろう。
けれど、これ以上は何も言うまいとしたのか、エーリッヒは「次は」と念を押す。
……次か。
果たして次があるのか? そんなのあいつ次第じゃないか。
「……わかっているよ」
けれど、私はこう答えるしかできない。
すると、私の返答など予測済みだと言わんばかりに、ブレットのヤツが鼻で笑った。
「ま、お前らのことだ。端からそう上手くいくとは思ってなかったさ」
元気を出せということだろう。
わざとらしいとしか言えないが、彼の存在は正直ありがたい。昔も、今も。
大丈夫。次は、ある。
私は気を取り直して、メニューに目を通していく。
「何にします?」
エーリッヒが注文をまとめにかかる。
「別にどれでも同じようなものだ」
きっと、どれを食べても美味しくない。
シュミットは素直になれない子であればいいと思う。
ブレットは、何だかんだと言って優しいと思う。