ミニ四駆学園
仲直りの仕方
占いなんて見ないけど、
今はものすごくシュミットとの相性が気になる。
だって……、
「有り得ないだろブレット!」
「おいおいどうしたんだ朝から」
八つ当たりなのは勿論承知している。
私は登校して教室に入るなり、ブレットの席に詰め寄った。
「シュミットとはただでさえ仲が悪いというか、気が合わないというか……まぁ、相性最悪だというのに、最近は酷いんだ」
「例えば?」
「先生からノートの回収を頼まれて、職員室まで運んでいる途中、ヤツとぶつかった」
「なんだ喧嘩くらい。いつものことじゃないか」
悔しいが、喧嘩するならいつものこと。
「いや。喧嘩にならなかった」
ぶつかった相手が私だとわかると、一瞬眉を寄せ、何も言わずそそくさと行ってしまったのだ。
「最近避けられている気がする。私は何か怒らせるようなことしたか?」
「身に覚えは?」
「今までと同じような行いならいくらでも」
ふむ。とブレットは自分の顎に手を当てて考え込んだ。
「……ま、気にするな。俺の方からそれとなく聞いておいてやるよ」
ぽんと、私の頭に手をのせる。
ブレットのサングラスに不安そうな顔が映っている。
あぁ、そうか。彼は私を気遣ってくれているのだ。
「どうした?」
ブレットは私に笑いかけた。
「いや。……心配かけてすまない」
「らしくないな。親友だろ?」
「そうだな」
のほほんと、良い感じにまとまってきた時、ブレットが私の後方に何か見つけたらしく、口元をあげて微笑む。
「どうしたんだブレット?」
振り返れば、シュミット。どうやら、ブレットに用があったらしい。私の姿を捉えて、固まっている。
噂をすれば影ありとか言うが、本当にそうなると若干笑える。
「シュミ………」
彼に声をかけようとしたら、きびすを返して去って行く。
一体、何なんだ。
「行かないのか? こういう時は追うものだろ?」
「……今から行っても、追いつけない」
「ならどうする?」
「待ち伏せする」
体育の時間。
エーリッヒに片付けの当番を代わって欲しいと頼まれて、俺は薄暗い倉庫に来ていた。
「よし。これで全部か」
ボールを全て片付け、これで終わり。
急いで着替えてないと、次の授業に間に合わない。
ふと、ばたんと重い音が響いた。
「え」
一気に視界が暗くなる。誰かが扉を閉めたのだ。
「冗談だろ!」
慌てて扉に近寄ろうとした時、横から衝撃を感じた。不意を突かれたため、そのまま倒れる。幸い、倒れた先はマット。怪我をすることはなかった。それよりも、
「誰だ!」
腰に巻き付いている、この暖かさ、感触は紛れもなく人だ。無理矢理引きはがそうとした時、その人物から発せられた声に驚いた。
「やっと捕まえたぞシュミット!」
「……?」
何故がここにいる?
男子は体育館でバスケ。女子は外でテニスだったはずだ。
「……なんで?」
「全く! いい加減にしろ! 一体、私がお前に何をした!」
暗くてよく見えないが、相当怒っているらしい。
「何を……ってどういうことだ?」
「お前、最近私を避けているだろう。言いたいことがあるなら、面と向かって言えばいいだろう!」
そういうことか。
そのために、授業をさぼってここで待機していたのか。
エーリッヒも、使って。
「別に……とにかく離れろ!」
「断る! 逃がしてたまるか!」
そう言って抱きつく力が増す。
「こ、こら……!」
女性に抱きつかれるのは慣れていない。
そのため、体と体が触れている部分にどうしても意識がいってしまう。
あつい。
普段、ブレットやエーリッヒと変わりなく接していても、は女性なのだと、考えたくないのに、考えてしまう。
「わかった! 話すから! だから離してくれ!」
「話すのが先だ」
「くっ……わかった」
平常心を取り戻そうと、深呼吸をする。結果あまりかわらない気もするが、仕方ない。
薄暗くて顔の見えない相手を見た。そして、ずっと言おうと思って、言えずにいた言葉を、ぼそりと言った。
「この前は、……悪かったな」
この前の遠足で、怪我をしているに、つい不躾なことを言ってしまった。リョウに咎められてから、言い過ぎたと後悔したが、もう遅かった。
それ以降、何となく謝りづらく、今までずっと引きずってしまっていた。
「は? 何のことだ?」
人がようやく言ったのに、何のことだだと?
表情は暗くてわからないが、声の調子から言って、きょとんとしているのだろう。
シュミットは怒っているのだと思っていた。
だって、会えば嫌そうな顔をしていた。
……まぁ、それはいつものことなのだが、今までになくとでも言うべきか。
それなのに、今ヤツは、私に謝罪の言葉を投げかけてきた。
どういうことだ?
冷静に、過去を振り返る。
ヤツが、私に謝る?
何にたいして、だ?
記憶の糸をたぐり寄せ、ようやく遠足の出来事を思い出した。
「もしかして、この前の遠足の時のことか?」
「それ以外に何がある」
むっとした口調。
謝りたいのか、喧嘩を売りたいのかどっちだと思ったが、今は目を瞑ってやる。
「……お前そんなこと気にしてたのか?」
「そんなことって」
「はぁ……私は気にしていないと何回も言っただろう?」
「だが!」
「そうやって無言で避けられる方が、よほど堪えるんだ」
きっぱりはっきり言われた方がまだ良い。
理由もわからないまま、無言で避けられると、自分を疑ってしまう。
「だから、悪かったって言ってるだろ!」
「さっきの悪かったは、遠足に関してだろ! ずっと避けてきたことに関して謝れ!」
「何でお前に命令されなければいけない!」
「命令じゃない。決定事項だ。悪いことしたら謝る。これ常識」
ふん。とふんぞり返る勢いで、言ってやった。
今回私の言い分は正論。
シュミットも、それがわかっているため、なかなか反撃してこない。
良い気味だ。
「くっ………! もういいだろう! いいから離せ!」
私の腕のなかでシュミットが身じろぎだず。
なんだか、その様子がゆかいに思えて、抱きしめる力を強くした。
あぁ、あれだ。
人の嫌がることをするのは、面白いということ。
「な! 何をしている! 離せ!」
はは。ゆかいゆかい。
シュミットで目一杯遊んでいると、すっと光が差した。
扉がゆっくりと開いて行く。
「さん。お話はもう済みましたか?」
にこやかな笑みを浮かべた、エーリッヒが立っていた。
気のせいか、その笑みは私の隣のシュミットに向けられているような。
「え、エエエエエーリッヒ!」
シュミットがものすごい勢いで、私を引きはがす。
その顔は、真っ赤で湯気でも出そうな勢いだ。
「エーリッヒ。ありがとう。おかげでシュミットと仲直りできた」
シュミットから離れると、とてとてと、エーリッヒの元へ駆け寄る。
「お役に立てて何よりです。それより、この後、どうしますか?」
「そうだな。今更授業に出るのもなんだし、裏庭でレースでもするか?」
シュミットも…と誘おうとしたら、
「お、俺は行かない!」
そう叫んで、どこかへ走り去ってしまった。
「シュミット?」
「仕方ありませんね。私達だけでレースしましょうか」
仲直りの記念にとでも思ったんだが、まぁ仕方ない。
エーリッヒの横に並んで、裏庭へと足を運んだ。