猪突猛進シリーズ
けじめ
ビクトリーズの次の対戦相手はロッソストラーダ。
今、私達は彼らのレースビデオを見て対策を立てているところ。
「今回も、彼らが大人しくしているとは思えない。みんな気をつけて」
リーダーの烈君が気を引き締めてみんなに言う。
その姿は、やっぱり、リーダーなんだなって思う。
けど……、私の思考は別の所へと移る。
モニターに映る愛しの人。
華麗な身のこなしは、まるで黒猫のように美しい。
「……やっぱり素敵だな」
仮も会議中。
私の発言は相当浮いたようで、みんなから変な目で見られる。
「あ。ごめん」
あっさりと流してしまえばいいものを、豪君が身を乗り出して聞いてくる。
「素敵……って、もしかしてロッソのオカマ野郎のことか?」
「オカマ野郎って何よ。ジュリオさんよ!」
その返答に、室内の温度が少し下がる。
心なしか、リョウ君は鳥肌が立っている。
「ま、まぁ……人の好みは、人それぞれと言うでげすが」
「オメーにだけは言われたくねぇよな」
「何でげすと豪君!失礼でげす!」
またいつものごとく、喧嘩が始まった。
誰も止めない。
あはは。
毎度のことだけど、なんか和むなー。
なんて、思っていたのもつかの間。
「……ふん。目が腐ってるんじゃないの?」
止めに入ったわけではないが、烈君の冷たい一言で、二人の喧嘩は止まった。
見れば、今までになく冷たい目をした烈君がそこにいた。
「……ちょっと烈兄貴」
「だってそうだろう?彼らの走りは知っているはずだ。それなのに、素敵だなんて目が腐ってるとしか言いようがないね。それとも脳の構造がおかしいんじゃないの?」
どうしたんだろう。
今まで、こんな烈君、見たことがない。
「そんなに彼が好きなら、ロッソのサポーターにでもなれば?そんな気持ちでビクトリーズにいられても迷惑だよ」
その一言を残して、烈君は部屋を出て行ってしまった。
「おい!烈兄貴!」
豪君が後を追おうとする。
けど、それを私が止める。
「いいよ。豪君」
「だって……」
「私が行くから」
私は烈君を追って部屋を飛び出した。
どうして、烈君は怒ったんだろう。
良く考えてみる。
確かに烈君の言い方にはむっときたし、怒鳴り返してやりたいとも思う。
けど、
……そうか。
「私はビクトリーズのサポーターなんだ」
自分がすべき仕事に、私情は持ち出しちゃいけない。
けじめはつけないと。
ただ闇雲に捜すほど、私は馬鹿ではない。
……っていうか、ビクトリーズのユニフォーム着てでていけば、嫌でも目立つのよね。
町ゆく人に尋ねれば、彼が何処へ行ったかなんて、直ぐにわかる。
駅前に向かったと聞いて、私は彼を追う。
けれど、人混みの中にそれを見つけてしまった。
「……ジュリオさん」
思わずぽつりと、その名を呼んでしまった。
どうやら、その声が届いてしまったようで、ジュリオさんはこちらに気がつく。
そして、つまらなそうな顔をする。
「なんだ。あんたなの。前にも言ったけど、私あんたみたいな女には興味ないからね」
「……はい。聞きました。でも諦めませんから!」
「……わかってないのね」
そう言ったジュリオさんの目は細く鋭く私を射貫く。
どこまでも冷たい目だった。
「……大嫌いなのよ。あんまりちょろちょろされるとウザイのよ。……潰してやりたくなるわ」
不敵に笑うその姿は妖艶で、私は思わず見惚れる。
「……なによ」
「それでも、私はあなたが好きです」
「…………ふん」
それ以上何も言わずに、ジュリオさんはその場から去っていった。
二度目の告白。
やっぱり、まだ、胸が痛い。
「……随分、私、嫌われてるな」
負けないと決めてもやっぱり、痛いのだ。
「やっぱり。馬鹿なんじゃない」
聞き覚えのある声が、聞こえた。
「……烈君!」
「普通、ああまで言われた人間に「好きです」なんて言わないよ。ホントどうかしてる」
無愛想な顔をしてる。
でも、その姿が少し可愛らしい。
「ひどいね。普通はこういう時、慰めてくれてもいいんじゃないの?」
「……ふぅん。僕に慰めて欲しいの?」
見上げてくる彼の表情は少し真剣で、一体何を思っているのだろう。
少し期待して聞いてみた。
「慰めてくれるの?」
「……普通の女の子ならね。誰がお前みたいなヤツ慰めてやるもんか」
でも、やっぱり、そう言うのか。
……ま、烈君だしね。
「リーダー。そろそろ練習の時間ですよ」
「…………」
「妥当ロッソストラーダなんでしょう?」
「……当たり前だ」
そう言って帽子を深く被り直すと、私を置いてチームの元へと向かう。
「ちょっ……一緒に帰ろうよ」
「……お前なんかに合わせてられるか」
歩くでもなく走るでもなく微妙な速度で、私達は自分たちのチームの待つ場所へと帰る。
「ねぇ、烈君」
無言。
でも、私は続ける。
「私、自分の仕事と、私情はきっちり分けるよ。次のレース絶対勝とうね」
ふと、烈君の足が止まる。
そして、振り返って一言。
「ホント馬鹿だな。言われなくても勝つよ。絶対にね」
烈君はツンツンで良いと思う。デレはあんま見せない方が可愛いよ。