不器用に恋をしましょう10題

ガキじゃあるまいし何ですか、コレ。


 まるで猫のように気まぐれなバクラ君。
 ある日彼は、何を思ったかいきなり闇のゲームを仕掛けてきた。


「覚悟しな!」
「ひゃああああああ!」

 ここは人気の少ない裏路地。

激しい爆風が私を襲う。
 私は吹き飛ばされまいと、必死に踏ん張った。
 だが、飛ばされてきたガラス瓶が割れて、私の身体のあちこちをかすめる。

「おっと。ちょいとやり過ぎたかな」
「……全くよ」
「だが、こんなもんじゃねーぜ!闇のゲームはよぉ!」

 実に楽しそうに、彼は笑う。

「さぁ、お前のターンだぜ!」
「モンスター1体を、攻撃表示で召喚!バクラ君のモンスターを攻撃!」
「かかったな!この瞬間!罠カード発動!」

 再び、私を爆風が襲う。
 転がっていたガラスの破片が、今度は深く私の右足を刺した。

「っあああああ!」

 あまりの激痛に私は声をあげる。
 そして、その場に座り込んでしまった。

「けっ……だらしねぇ。もっと楽しませてくれよ。なぁ?」

 ぐぃっとあごを持ち上げられ、私は顔を歪める。

「だが、まぁ……こんなもんか」

 興味を失ったという顔をして、私から手を放すと、彼は背を向けて行ってしまった。

 って、放置してく気?
 向こうから誘っといて、ヒドイ。

「ふぅ……」
 
少し手足を動かしてみる。
 ずきずきと傷口が痛い。特に右足は酷い。

 ぽつ、
 ぽつ。

 冷ややかな雫が私の頬に当たる。

「あちゃー雨か。傘持ってないし、この足だし……バクラ君の馬鹿」

 普通に考えたら、馬鹿じゃすまないんだけど。
 彼という人間をよく知っている私は、もう諦めていた。

 とりあえず、こんな危なげな所は早くでようと、足を引きずる。
 だんだん雨が酷くなってきた。
 雨が傷口に染みて痛い。

 もう少しで大通りに出ようという時。

「よぅ。ねえーちゃん、大変そうだな」
「傷の手当てしてやるよ。こっちに来な」

 裏路地にたむろしている、不良が数人。
 親切に話しかけてくれたが、相手が相手だけに信用して良いのか迷った。

 でも、バクラ君みたいな人たちに比べたら、この人達はまだ可愛いもんだよね。

 何より、傷が痛むのは本当なので、彼らにお願いすることにした。

「すみません。お願いします」
「へぇ。素直だねぇ。いいぜ。さ、肩に掴まれ」

 彼らに連れられ、直ぐ傍のちょっと怪しげなお店まで来た。

 うーん。さすがにちょっと選択誤ったかな。
 でも、どうせこの足じゃ逃げられないしな。

「おいおい。怖がらなくても良いんだぜ?」
「そうそう。俺たちはちょっと傷の手当てをしてやるだけだって」

 ……もう、なるようになれと、覚悟を決めた時。

 私を囲む不良達が一気に倒れた。
 当然、支えを失った私も、その場に倒れるしかない。

 膝がコンクリートに当たって、すんごく痛い。

 私が痛みをこらえていると、頭上からよく知っている声が聞こえてきた。
 
「全くテメェは……、そんな店になんの用だ?」
「……バクラ君」

 何故かスーパーの袋を提げたバクラ君が立っていた。

「ほらよ」

 そう言って、何かを私に被せる。

「……何コレ?」
「いいから着てろって、俺様の好意だ。有り難く受け取りな」

 よく見ると、それは、

「……黄色のレインコート」

 そう。幼稚園や小学校の子が着ているようなそんなブツです。
 …………激しくいらない。
 
 脱ぎ捨てようとしたら、ぐいっと右足を持ち上げられ、痛みに悲鳴をあげる。

「お前なぁ……まずは止血しろよ」
「原因を作ったあんたに言われたくない」

 私の発言はまるで聞こえていないかのように無視して、バクラ君はスーパーの袋から包帯を取り出してテキパキと巻いていく。

「ま、こんなもんか」
「…………あの、ちょっときつくしすぎじゃ、痛いんだけど」

 これまた無視。

「あとはこっちを履いとけ」

 今度はなんと黄色い長靴を取り出した。

「…………やだ」

 黄色のレインコートに黄色の長靴って……最悪じゃん。

「俺様の言う事が聞けないのか」

 襟首掴まれ、私はうめく。
 手加減なしで、本当に苦しい。

「……わ、分かったって…ばっ!」





 雨降る夜。
町中を、黄色いレインコート、黄色い長靴の少女を背に、少年はゆく。

「……人々は思うだろう。『何、この人』と……」
「……うるせぇ。黙ってろ」
「だって、いくらなんでも黄色……黄色はない」

 バクラ君の背中で、人知れず涙を流す。

「…………選んだのは俺じゃねぇよ」
「は?他に誰がいるって言うのよ?」
「…………宿主」
「…………」

 ははは。まさか了君が、そんなこと……。
 …………。いや、でもバクラ君の方が、この黄色の雨具セット買うのを想像できない。

「…………本当?」
「テメェには黄色が似合うって言ってたぜ」

 って了君の見立てなの!
 う、喜ぶべき所なのに、素直に喜べない。

「けっ……勝手にやってろ。ま、そのお子様スタイルは、似合ってるぜ、ほめてやるよ」
「……少し黙ってればいいよ」

 傷口が痛む。
 でも、雨が染みこむ心配はもうない。

 それだけは感謝してる。

 …………本人には言わないけどね。

とりあえず、お題に沿って頑張ってみた。
バクラは嫌がらせでも黄色のレインコートや長靴は買わないと思う。
買うならたぶん宿主の方だろうな。

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