不器用に恋しましょう10題
ギャップは恋の致死量への到達点
「どうだ。今までのお前の人生の中で最も美味いだろう!」
……などと朝から高笑いとは……海馬社長元気ありすぎ。
私は熟睡しているところを、無理矢理起こされげっそりだ。
てか、毎度のことながら……。
「社長だから何をしてもいいってわけじゃないでしょ!いい加減不法侵入やめて下さい!」
そう。ここは紛れもなく私の部屋。
セキュリティもそれなりにしっかりしているマンションの一室だ。
だが、そのセキュリティも何処ぞの横暴社長の前では何の意味もないらしい。
これで何度目の不法侵入だろう。
「うるさい!……大体今回はお前が原因ではないか!」
「へ?」
何を言い出すかと思えば。
まてよ……そう言えば。
そう、確か三日ほど前。
「ふん。相変わらず貧相な弁当だな」
珍しく学校に登校していた社長。
昼休み、人の弁当をのぞき込むなりそれかよ。
「ほっといてよ」
「全く。それで満足できるのは庶民故か」
「うるさいわね!大体食事の準備も一人じゃできないあんたに言われたくないわよ!」
「なんだと!」
「どーせ。包丁の使い方は勿論、レンジなんかの使い方もわからないんじゃないの?」
どーせ。何から何まで、やってもらって、自分は何もできないくせに。
「っていうか、あんたも知ってるでしょ。私一人暮らしなのよ?朝ご飯もお弁当をちゃんと自分で作ってるなんて、普通はすごいっていうもんよ。あんたにはわかんないでしょーけどね」
「その程度ですごいだと。フン。笑わせてくれる!」
「そこまでいうなら、あんたが作ってみれば?ま、包丁の握り方もわからない金持ち様だもんね。何ヶ月でも待ってあげるわよ。あははは」
なんて会話をしたような……。
でも、まさか……。
「フン。ようやく思い出したか。見ろこの俺様が用意した究極の朝食を!」
テーブルを見れば、明らかに朝食の量ではない料理、フランス料理のフルコースが並んでる。
……これを朝から一人で食えと。
台所を見れば、昨日と違い綺麗になっている……というよりも。
「……海馬君」
「キサマの貧相なキッチンでは貧相な料理しかできんからな。些か改造した」
余計な調理道具や設備が備え付けられ、軽くリフォームされている。
わぁ〜すごぉーい。
……なんて誰が思うか!
でも、
「この料理、全部海馬君が作ったの?」
「当たり前だ!」
「うっそだー。だって……」
そういって海馬の手をとる。
「お、おいっ!」
「指切ってないじゃん。海馬君、料理初めてなら絶対勢い余って指切るもん!」
「勝手に決めつけるな!大体!料理は初めてではない!」
「え……?」
「……昔、色々あってな」
昔、色々って……。
でも、悪いけど、ここでシリアスな空気に持ち込む気ないからね。
私は、ふーんと、適当に流すことにした。
「あのさ。起きた時から……見ないようにしてたんだけど、そのエプロン何?」
私は、起きたときから目に飛び込んできて仕方ない、海馬君のしているエプロンを指さした。
「あぁ。これか。これはブルーアイズ・ホワイトエプロンだ!」
「んなもん作んな!」
ちなみに、海馬のしているエプロンは、通常想像されるであろう白いフリフリエプロンのギザギザバージョンで、素材は……シルバーらしい。胸元のポケットがブルーアイズの口になっているのが何とも……シュール。
「この素晴らしさが理解できんのか。全く」
「できなくて幸せです」
「キサマの分も作ってきてやったというのに」
「いるか!」
こんな悪趣味なエプロンで社長とペアルックなんて嫌だ。
「はぁ。もういいから朝ご飯食べよ」
「何?俺もか?」
「当たり前よ。私一人じゃ食べきれないでしょ明らかに!」
「……そ、そうか」
こうして向かい合って一緒に朝ご飯にするのも、たまには良いかも。
なんて、思ったのもつかの間。
食べてるとき、やたらそわそわしていると思ったら、
「まだあるぞ!この俺お手製ブルーアイズ・ホワイト弁当だ!」
……いや、だから、もういいってば。
海馬君がエプロンしてお料理。しかも手作り弁当作るなんて……ちょっとにやにや。
社長はぜったいやるからには手を抜かないと思うんです。