不器用に恋しましょう10題
恋に焦がれて鳴く蝉より。
はぁ……。
どんなにジュリオさんにアタックしても、結果はいつも撃沈。
「……切ないなぁ」
ここはインターナショナルスクール。
私はここに通ってる訳じゃないけど、ジュリオさんにアップルパイを渡しにきたのだ。
「お菓子はいつも受け取ってくれるけど、こうも毎回「興味ない」「嫌い」「ウザイ」の三拍子を言われるとね……」
廊下の窓から入道雲を見ながら溜息。
空はからっと晴れてるのに、私の心は梅雨まっさかり。
蝉の鳴き声がいつもに増してうるさい。
「おや、さん。どうかしたんですか?」
振り返れば、アイゼンヴォルフのエーリッヒ君。
そっか。エーリッヒ君もここに通ってたんだ。
「……ん。ちょっとね」
……とか言いながら、校内のカフェで悩みを聞いてもらう。
ごめんねー。とは思ってるんだけど、こう、人に話して楽になりたいんだよ今は。
エーリッヒ君は聞き手上手で、ただ黙って聞いてくれた。
「さんは、ジュリオさんが好きなんですね」
「……うん。みんなは、おかしいって言うんだけどね」
「誰を好きになるかなんて、自分自身が決めることです。他の人の言うことは気にする必要はないですよ」
エーリッヒ君は優しいな。
私は嬉しいんだけど……。
「エーリッヒ君は優しすぎるよ。そんなんじゃ自分が損しちゃうよ」
「そうですか?」
「うん。「好きだよ」て言われたら、なかなか断れないタイプだよね。自分よりも他人を優先して、できるだけ応えてあげようとするタイプだよね」
「さすがにそれはないですよ。それよりもさっきの……ジュリオさんの話ですが」
エーリッヒ君は少し視線をずらし、外の木々を見る。
「さんは少し一途過ぎるのではないでしょうか?」
「……うーん。そうなのかな?」
「……蝉が鳴いてますね。彼らをどう思います?」
「僅かな期間しか生きられないとはいえ、結構うるさいよね」
身も蓋もない言い方だけど、思ったままを口にする。
「彼らは必死に愛を叫んでいます。でもあのように、ただ自分の想いを一方的にぶつけるだけでは相手を困らせてしまうでしょう」
「私も、もう少し控えた方がいいってこと?」
「時と場合と……相手によるとは思いますけどね。でも……」
正面を向いたエーリッヒ君と目が合う。
その目は何処までも澄んでいて綺麗だった。
「私は、好きな人相手ならば、どんな想いも受け止めます」
ほんと。何処までも優しいんだから。
「やっぱり、エーリッヒ君は素敵だね。そういうところ好きだよ」
少し照れた笑みを浮かべる。
普段から大人っぽい彼が、なんだか可愛らしく見える。
「ありがとう。ちょっと元気でた」
軽くお礼を言って、私はカフェを後にする。
「……好きだよ。……ですか」
残されたエーリッヒは、小声でぽつりと零した。
が去った後。
「エーリッヒ。お前馬鹿だろう」
「シュミット」
いつから見ていたのか、シュミットは少し怒っていた。
「エーリッヒは優しすぎる。どれだけ損すれば気が済むんだ」
私は苦笑し「聞いてたんですか?」と、わかっている質問をしてみた。
「本当に、自分よりも他人を優先して、できるだけ応えてあげようとするタイプだな」
「やっぱり聞いてたんですね」
シュミットは、先程までが腰かけていた席に座ると、真っ正面から私を睨み付けてきた。
「この場合!さっさと諦めさせてやればいいだろ!よりにもよってロッソのジュリオなんだし!」
「駄目だなぁ〜シュミットは。それじゃ嫌われちゃうよ」
シュミットの言葉に応えたのは私ではなく……。
「「り、リーダー」」
「やぁ。楽しそうな話をしているね。僕も混ぜてよ」
にこにこと、微笑みながらリーダーが席に着く。
そして、
「こういう場合。「ジュリオなんかより僕の方がずっと君を大事にするよ」とか言うんだよ」
などと……り、リーダー………。
「ふふ。駄目だなぁ。二人とも」
まぁ、誰にどう言われようと、私はこれで後悔してませんよ。
『やっぱり、エーリッヒ君は素敵だね。そういうところ好きだよ』
その一言で、十分に幸せなんですから。
彼はきっとその想いを口にはしないと思います。
好きな人の幸せを第一に考えていそうです。