夢・小説書きさんに100のお題

002花火 /チェレン



日が沈んだというのに、むんとした熱気で溢れている。

こんなダレそうな夜にやる事なんて決まってる。


「よぅし!点火!」

!ストップ!草むらで花火は危ないよ!常識じゃないか!」

ばしゃん、とバケツの水を点火したばかりの花火にぶっかけられた。……わたしごと。


「全く、火事になったらメンドーになるところだったよ。だいたい君はいつもいつも…………」

「ねぇ」

「何?まだ僕の話は」

「何してくれるのよ!」


私はチェレンの襟首を掴むとすぐ側を流れる川へと放り投げた。自分ごと。


静かな夜に、水飛沫の音がうるさく響きわたる。

拍子に眼鏡が落ちたらしく、鋭くて冷たい藍色の瞳とかち合った。

あぁ、怒ってるな。と思ったが、気にしない事にした。

けれど、勿論、彼が気にしないでいてくれるわけもなくて、


「……どういうつもり?」

短い黒髪な先から雫が落ちる。月光を浴びる彼はどこか妖艶で、少し見惚れた。
凶悪な色を浮かべた瞳に気付かなければ、そのままでいられたかもしれない。

仕方なく自分もばたんと倒れて、川に全身でつかる。

……ほら。もう怖い顔してない。


一瞬ぎょっとした顔を見せ、すぐにいつもの顔に戻る。


「……頭、大丈夫?」

「通常通りだけど?」


はぁ……と重い溜め息をすると、彼は手探りで見つけた眼鏡をかけた。


「馬鹿は夏風邪ひきやすい。……って知ってるよね?……現にベルだってかかってる」

「あはは。ベルに謝りなよ」

「……はぁ、今日はもう帰ろうよ。だいたいベルが風邪で来れなかった時点で、別の日にすれば良かったんだよ。……僕とだけじゃつまらないだろ?」

「それはないよ」


と、否定する。


「ベルの体調が良くなったらまた改めてやるし、今日のは今日で楽しむの。…………ねぇチェレン。こんなにのんびり出来るの今年で最後、だからね」


来年の春には、みんなそれぞれポケモンと一緒に旅に出る。


「だから、今を楽しみたいの」


チェレンは起き上がると、呆れ顔で見下ろした。


「馬鹿だね。会えなくなるわけじゃないんだ」


私の手をとり立ち上がらせる。


「僕もベルも、君が会いたいというなら、いつでも駆け寄るよ。……分かってると思ってた」


「……分かってるよ」



でも、時はそれを許さなくなるだろう。


「ありがとう」



でも今は、今だけを考えていれば良い。