短編

クリスマスの夜に


12月24日 クリスマスイブ

クリスマスイブと言ったらサンタよね。……恋人と過ごす甘い夜とか考えたヤツ、ちょっと黙ってろ。

別に、私だってクリスマスを一人で過ごすわけじゃないわよ?……家族と祝うクリスマスも良いじゃない。


ま、そんな事はどーでも良いのよ!

とにかく、サンタよサンタ!


せっかく幼馴染み二人が、マサラタウンに帰って来てるみたいだし、真夜中のサプライズといこうじゃない。

真っ赤なサンタガールの衣装をまとい、ちょっと小さめのプレゼントの袋を背負うと私は家を飛び出した。

***


というわけで、まずはグリーンの家から。

ポケギアでナナミさんには連絡済。
家の明りはもう消えているけれど、玄関のドアは開いてるはず。

私はそろりと近付いて、そのドアノブに触れた。

瞬間に、ドア開いたので、手を引っ込めた。


「…………!」

私が開けたわけじゃない。ゆっくりと何かを警戒するようにドアが開いて、赤いモノが出て来た。

赤いモノって言うか、私と同じサンタコスね。

目の前にいるサンタコスの人は私に背を向けたまま、静かにドアを閉めると安心して振り返った。
無論、私と目が合う。

「なっ……!」
「しーっ!夜中に大声出さないの!」

サンタは幼馴染みのグリーンだった。まさかこんな所で出会うとはね……。こっそり部屋に忍びこんでやろうと思ってたのに、残念だわ。

「……何やってんだよ」
「お互いにね」

私達二人の間に妙な沈黙が降りる。

お互い、見た瞬間「何やってんのコイツ」とか思ったけど、すぐに「お前もか」と理解してしまった。

「……かぶっちゃたわねー」
「……だな」

寝顔が見れなかったのは残念だけど、仕方ない。目の前のサンタさんに用意してあげたプレゼントを渡す。

「メリークリスマス。グリーン」
「お、おう。サンキュー。……それじゃ俺も」

そう言って差し出されたのは可愛しく包装されたプレゼント。

プレゼントを貰うのってやっぱり嬉しいものよね。

私は笑顔でお礼を言った。

しかし、ふと気にかかった事がある。

「……あんた。私の部屋に無断で侵入する気だったの?」

サンタコスで私のプレゼントを用意していたという事は、つまりそういう事。

「うら若き乙女の部屋に、夜中、不法侵入しようだなんて、寝込み襲う気だったんじゃないでしょうね」

ちょっと意地悪かなと思いつつ、彼に問い詰める。

「まぁな」

からかう気満々でニヤけていた顔が、そのままフリーズする。

「……はい?」

随分、間抜けな顔をしていたんだと思う。
グリーンはニヤニヤと笑っている。

「冗談だっつーの。マジ、本気にした?」

……コイツ、最低。

私は、ヤツの足を思い切り踏み付けようとした。しかし、予期していたようで容易く避けられてしまった。

「だいたいうら若き乙女がこんな真似するかよ」
「このご時世、うら若き乙女も強くなきゃいけないのよ」

私はそっぽを向いた。

「まぁまぁ、怒んなよ。……お前、プレゼント配りに行くのは俺で終わりか?」
「あとレッドんとこ」
「……ま、そうだよな」

あぁ、一緒に行こうってことね。

「よし。じゃあ、レッドんち行こうか」
「は?いや待て待て、俺がついでにお前の分も渡して来てやるから、もう帰れ」

は?何言ってんのコイツ。
忍び込む楽しみあってのプレゼント配りでしょ。

「ぐずぐずしないの!夜が明けちゃうわ!ほら!早く!」
「……ほら早くって、せめてその服……」

ブツブツと何か言ってるグリーンを放っておいて、私はレッドの家へと向った。

***

レッドのお母さんにも、サンタの衣装で忍び込む事は言ってあるし、遠慮なく家にあがらせてもらう。

「サンタの仕事って、一歩間違えりゃ泥棒だよな」
「言っときますけど、不法侵入じゃないからね。私はちゃんと許可もらってるんだから、私は」

グリーンと一緒にしないでよね。

「あ、そ」

特に気にした様子もなく、グリーンは階段を上がっていく。
先を越されたくないので、私も慌ててそれに続いた。

いくら暗闇に目が慣れたからといっても、やはり暗くてよく見えない。

「踏み外すなよ」
「あんたがね」

階段を踏み外さないように一歩一歩、気をつけながら進む。

そして、とうとうレッドの部屋に辿り着いた。


「暗っ」

部屋の中は一層闇が深かった。
先に入ったグリーンが思わず歩みを止めた。

「えっと、レッドのベッドは……」

ベッドの位置を記憶から呼び覚ましながら、私は壁伝いに移動した。

するといきなり何かが飛んできて体を覆った。縄…ネットだと思う。


「ひゃっ!」
「どうし……うわっ!」

どうやらグリーンも私と同じ状況らしい。


「……不法侵入者、ゲット」


聞き慣れた低い声が響き、部屋の明りが点いた。

急に明るくなり、眩しさに耐え兼ねて目を細める。

狭い視界に映ったのは紛れもなく、私達の幼馴染み。
パジャマ姿だけど、その様子から寝ずに獲物がかかるのを待っていたのだろうと伺える。

「レッド。……テメェ」
「二人ともよく似合ってるよ、その格好」

その格好と指さすのは、おそらく、網にかかった獲物状態の、この姿の事よね。

「……一応、メリークリスマス」

こんな状況だけど、とりあえず言ってみた。

「メリークリスマス。……で?なんでグリーンも一緒なの?」
「え?私が来るのは知ってたの?」
「母さんに聞いた」

なんて事。
サプライズのつもりが……。

「出かけようとしたら止められた。……理由聞いて、仕方なく部屋で良い子にして待っててあげたんだけど」

私達を見下ろしながら、口にしていないが、目が言ってる「感謝しなよ?」と。
そんなヤツが「良い子」なわけないじゃない。

「……えーと、とにかくにいてくれて良かったわ。……寝ていてくれたら、なお良かったんだけど」
「なに?勝手に不法侵入した挙句、人の寝顔見ようって?良い度胸してるよね」

本物のサンタさんがいても、レッドの元にはやってこないでしょうね。……ってか来たくないと思う。来たら最後だもんね。

「別に見せてあげても良いけど、有料だからね」

誰が金払ってまで見たいと思うか。

「……で、なんでグリーンと一緒なの?」
「別に、たまたまサンタするのがかぶっちゃって、さっき外で鉢合わせしたのよ」
「なに?お前焼いてんの?」

ガキクセーと笑うグリーンに、ピカチュウのぬいぐるみがクリーンヒット。

ぷ。マヌケ。

「……ていうか、拗ねてんでしょ……ぐはっ!」

私の顔にもピカチュウのぬいぐるみがクリーンヒット。
……何気に重いわね、コレ。

「……うるさい」


照れ隠しだと分かれば可愛いけど、やっぱり痛い。

すると、何を思ったのか、網ごとズルズルと引き寄せられた。

「ちょっと!何!」
「眠い。寝る。……馬鹿騒ぎに付き合って疲れた」

網に包まれたままベッドに引き上げられる。

「ちょっと待てレッド!」
「グリーンは床」




恋人同士で過ごすクリスマス?何ソレ?


幼馴染みの3人で過ごすクリスマスも良いじゃない。

……投網付きで、ピカチュウのぬいぐるみが飛び交ったりしてるけど。

そんな聖夜も良いじゃない。






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クリスマスにupしようとしたら、熱でぶっ倒れて無理だった作品。

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