デュエル学園シリーズ
運命のクラス分け
『新入生のデュエリスト諸君。よく来てくれました。
私は校長のペガサス・J・クロフォードデース』
校長先生は長い銀髪の男の人だった。
……なんていうか想像と随分違うなぁ。
「見て杏子。校長先生若いよ」
「知ってるわよ。ていうかはパンフ見てないの?」
あは。……見てない。
「もうってば」
こつんと額を軽く小突かれてしまった。
「そういえば、今日クラス発表されるんだよね。杏子と一緒がいいな」
「そうね。私もと一緒がいいわ」
「ふふ〜ん♪ でも杏子。本当は私となんかより、想い人と同じクラスになりたいんでしょ?」
「なっ…………!」
ほんと、わかりやすいなぁ。
「ふんだ。杏子は私よりも男をとるんだね。ひどいなぁ」
「ちょっと!」
「こらそこの新入生!」
あ。しまった。
「新入生としての自覚が足りていないようだな。即刻、退学にでもなりたいのか」
かつかつかつ、と青い学生服の男性が近づいてきた。
「ふぅん。どこの小娘かと思えば杏子か。よくもキサマごときが入学できたものだな」
「か、海馬君」
「やれやれ、今年はずいぶんと入試レベルが落ちたようだな。ずぶの素人のお前が入学など、試験官は何をやっていたというのだ」
何この人。
そりゃ、おしゃべりしていた私達が悪いけど、
この人の口の悪さには及ばないって。
「ちょっと! 黙って聞いてりゃずけずけと! 私の杏子にいちゃもんつけるのやめなさいよ!」
杏子の前に出て、男と対峙した。
うわぁ近くで見ると(身長差で)かなり見下し目線。
ものすごい威圧を感じるよ。
「何だこの薄汚いスズメは。杏子、キサマの仲間か?」
「は……」
「ちょい待ち杏子! 自己紹介くらい自分でできるわ!」
バッと手を天井に向け、そして目先の男へと指す。ビシッという効果音が入りそうな勢いで。
「新入生のナンバー1! 私の自慢のデッキで、あんたなんかケチョンケチョンにしてやるんだから!」
「ふぅん。威勢だけはいいな。最も、威勢の良さは負け犬の唯一の取り柄。それをとってしまえば、お前のような者には何も残らないだろうな」
「何を! 負け犬かどうか、今ここで試してあげる!」
ギンとお互い威圧する。
片方は上から、もう片方は下からで。
たとえ私が見上げる側でも、絶対負けない!
「ハーイ! 二人ともそこまでデース!」
火花散る私達の威嚇バトルに、介入者が現れた。
「海馬ボーイ。事態を悪化させてどーするのデース」
「……ペガ、いや校長」
「確かに、彼女たちが入学式を騒しくしたのは問題デース。ですが、これ以上は新入生イジメと見なしマース」
「チッ」
ひらりと青い制服をなびかせて、男は行ってしまった。
私は男の背に向けて舌をんべっと出してやる。
二度と会いたくない。
「レディがそんなことしてはいけまセーン」
「こら。もういいでしょう?」
二人に窘められて、ぷぃっとそっぽを向く。
断じて、私は悪くないと思う。……口にしたらまた怒られるだろうけど。
「でも杏子。あいつ何様のつもりなの! ふん。私、あいつ嫌い」
「まぁまぁ。にしても相変わらず海馬君らしいっていうか何ていうか」
「杏子の知り合い?」
あんなやつと知り合いなんて、杏子、かわいそう。
「あ、校長先生。お騒がせしてすいません」
杏子が、私に代わって校長に頭を下げる。
そういえば、いつの間にか校長先生がいたんだった。
謝罪する杏子に続き、私も頭を下げた。
「……ごめんなさい」
「気にしてまセーン。それよりも、あなた方お二人にはそろそろ列に並んでもらいたいのデース」
列? なんの?
気づけば、周りの新入生達はずらりと列を作っていた。
「カードを引くために並んでいるのデース」
「「カード?」」
「クラス分けは、ドローしたカードによって決められるのデース」
何という運任せ。
いや、デュエルにおいて運はかなり大事だけど。
「とりあえず。みんなカードを引くために並んでるんだね?だったら行こう杏子!」
「ちょっと!」
杏子の手を引っ張って、列の最後尾へと走る。
「ふんふ〜ん♪」
「楽しそうね」
「だって、こういうのって楽しみじゃない? どのクラスになるんだろう。杏子と一緒だったらいいなぁ」
「私もよ。あ。の番よ」
「よぅし!いっきまーす!」
「……お願いだから、あんまり騒がないでね」
杏子の声は私には届かない。
私はテーブルの上に置かれたデッキに手を置き、静かに瞳を閉じた。
どっくんどっくん。
カードの鼓動を感じる。
私はカッと目を見開き、カードを引いた。
「ドロー!」
シャキン。
引かれたカードが光を放つ。(私にはそう見えた)
ゆっくりと目の前にカードを運び、引いたカードを確認する。
私の引いたカード、それは……
オベリスク
「……オベリスク・ブルー」
このカードは正式なものではない。
入学式のクラス分けの道具にすぎない。
それでも、このカードを通して神の存在に戦慄がはしる。
「はオベリスク・ブルーね。よし私も!」
私と違って、杏子はあっさりとカードをドローした。
もうちょっと、念とかこめればいいのに。
とか、思っていたら、案の定引きが悪かったらしい。
カードを確認した杏子は少しシュンとしていた。
「……残念。私はオシリス・レッドよ」
「えぇっ!そんなぁ……私、運だけは良いと思ってたのにぃ……」
うぅ……そんな、運命の女神様。
私はあなたを怒らせるようなことをしましたか?
親友と離れ離れだなんて……。
「大丈夫。クラスは違ってもこの学園に一緒にいるのは変わらないわ」
「……そうだよね!」
ぎゅっと杏子に抱きつく。
私の方が背が低いのでちょっぴり杏子の胸が頬にあたる。
でも女の子同士だから気にしない。
杏子も頭を撫でてくれている。
『それでは皆さん、そのカードを持って各クラスの代表について行って下さい』
教員がスピーカーで次の
「それじゃぁね」
「うん。じゃぁね杏子」
一時の別れだ、寂しくなんかない。
そう。せっかく入学したのだから、楽しまなくては損だ。
るんたるんたと、オベリスク・ブルーが集まっている方へと足を運ぶ。
が、そこで私は歩みを止めてしまった。
「何をもたもたしている!不本意とはいえ…この俺が案内してやるのだから待たせるな!」
オベリスク・ブルー故に青い制服は珍しくない。
だが、この声。この口調。
「俺は海馬瀬戸!オベリスク・ブルーの総代表だ!」
ぐはぁっ!
この、不覚にもダイレクトアタックを決められてしまった。
ふ、ふらふらするよ。
「ん?キサマはさっきのスズメ。もしやお前もオベリスク・ブルーなのか?」
「いえ。今からカードを誰かと交換してきます。ええ交換してきますとも!」
二度と会いたくないと思った相手と、数分ほどで再び会おうとは!
運命の女神よ!私が憎いのですかぁっ!
「馬鹿者!この俺の目の前で不正を行う気か!ゆるさんぞ!」
「いや。だってあんたと同じクラスって!」
「フン!それが嫌なら、とっとと尻尾を巻いて逃げるが良い。
お前のようなスズメは、このデュエル・アカデミアにいて良い存在ではないのだからな!」
カチン
売られた喧嘩は買わなきゃ……ねぇ?
「逃げるですって!ハッなんでこの私が出て行かなきゃいけないの?
そうか。あんたが出て行けば全て解決!」
「ふぅん。できるものならやってみるが良い」
バチバチとここで再び火花が散る。
「おい。総代表さんよぉ。いつになったらこいつら案内する気だ」
声は海馬とかいう男の後ろから聞こえてきた。
「……バクラ」
「全く。お前がいつまで経ってもこねーから、この俺様がわざわざきてやったんだぜ」
「黙れ!」
「おぉこわい」
にたにたと笑う声。
長い白髪の青年だった。
「おいテメエら!総代表さんはガキの相手で忙しいようだから、この俺様についてきな!」
「バクラ!勝手はゆるさんぞ!」
「勝手はそっちだろーが。役目忘れてガキ口説いてんじゃねーよ」
「何ィ!キサマッ!」
笑いながら去っていくバクラとかいう青年。
それを追いかけるようにして走り去る総代表。
取り残されるわけにもいかず、彼らについて行くしかないオベリスク・ブルーの新入生。
「ちょっと! 待ってよ!」
かくして、私達はオベリスク・ブルーの寮まで全力疾走することに。
ははは。誰かなんとかしてぇ。
オベリスク・ブルーの寮へと、
全速前進だ!