デュエル学園シリーズ

担任登場






「イシズ早く早く!急がないと間に合わないよ!」
「心配はいりません。すでに未来は間に合わないと決められています。
 走るだけ無駄なのです。歩いて行くのが良いでしょう」
「そんな予知はいいよ!」

 走ろうとしないイシズの手を引き、私は走る。
 すでにチャイムは鳴ってしまったけど、それでものんびり歩いてなんかいられない。

「そして次の授業。あなたにとって最悪の人物との出会いが待っていることでしょう」

 イシズの言葉を理解するより前に、私は教室の扉を開けて飛び込む。
 乱暴に開けられたドアは悲鳴をあげ教室に木霊した。
 何事かと全員の視線が私達に集まる。

 う、うわぁ……痛い。
 視線が痛い。痛いよ。

「えと……。遅刻しちゃいました!ごめんなさい!」

 ……しん。





 幾ばくかの沈黙の時が流れた。 

 うぅ…ますます痛い。
 あ、バクラみっけ。
 ……おもいっきり笑ってるし。
 ちくしょー。


といったな。初日早々遅刻とはデュエリストとしての品性を疑われるぞ」

 教卓の前から一人の男性が近づいてきた。

「うぅ…ごめんなさ……」

 って!えぇぇっ!この人って!

「ブラック・マジシャン!?!?!?」

 そう、私の目の前にいる男性。
 その姿はあのブラックマ・ジシャン以外の何者でもなかったのだ。

 私の反応がお気に召したらしく。
 先生は微かに笑みを浮かべた。

「マハード先生。授業中ですよ。コスプレは控えてください」 

 私と先生の間にイシズが割り込んできた。

「えっ?コスプレ?」
「何度言えばわかるのだイシズ。これは私の制服だ」

 外見はとても格好いい美形で、ブラックマ・ジシャンの衣装もとてもよく似合っている。
 けど、……コスプレ教師っていいの!?

「それよりお前達。新学期早々遅刻して来るとは……。
 ふぅ。もういい。今日は多めに見てやるから、早く席に着け」
「は、はい……」

 今度はイシズに手を引かれ、私達は大人しく席へ着いた。
 途中、バクラがすれ違い様に「初日早々遅刻とは余裕じゃねぇか」などと言ってきたが、
 イシズが睨むと、バクラは渋々黙ってしまった。
 なんなんだろう?

 そして、授業は再開される。







「……で、あるからして」
「ZZzz……。ZZzz……」
「この時、うかつに攻撃すると……」
「ZZzz……。ZZzz……」
「……自軍のモンスターは自滅し……」
「ZZzz……。ZZzz……」


「…………。いい加減に起きろ!ブラック・マジック!」
「ひゃぁぁっ!」

 気持ちよく夢の世界を旅していた私は、いきなり頬に感じた冷たさで目を覚ました。
 どうやら、先生の杖から水が射出されたようだ。
 ……あの杖、ただのオプションじゃなかったんだ。

「ようやく起きたか。イシズ。隣にいたのなら何故起こさなかった?」
「私が起こそうとしても、は目を覚まさなかったでしょう。
 先生により目覚める未来を、私はすでに見ていました」

 いや、……イシズ。お願いだから簡単に諦めないで、お願い。
 ちょっとでも起こそうとかしてよ。

「つ……冷たい…」

 ぶるぶるっと体を震わせたその時、チャイムが鳴った。

「今日の授業はこれまで。解散。
 ただし、は残れ!」
「えぇ!」
「さぁ、用のない者は速やかに退出するように!」

 そ、そんなぁ……。

「それでは。私は先に行きます」
「イシズ……見捨てるの?」
。これも運命なのです」

 またか!

「せいぜい、コスプレ教師からお仕置きしてもらうんだなぁ」

 くっくっくと笑いながら、バクラもイシズに続いて出て行ってしまった。
 うぅ…薄情者ぉ!




 生徒達が去り、教室に静けさが訪れた。
 ここにいるのはマハード先生と私の二人だけ。
 状況次第ではなかなかの雰囲気だが、甘い雰囲気には絶対にならないだろう。
 私は大人しく椅子にちょこんと座り、先生はやや怖い顔をして私の向かいに座る。

「全く。新入生だろう?初日早々遅れてくるとは……」
「……ごめんなさい」
「いいか。この学園には誰でも入れるわけではない。
 入りたくても入試で落ちた者もいる」
「……はい」
「合格し入学することが決まった者は、その者達の分まで、
 デュエリストとしての誇りを持って、学園生活をおくらなければならない。
 それはわかるか?」
「……はい」
「なら、次からはこのようなことはないように心がけろ」
「わかりました」

 これで終わりかと、私はゆっくりと立ち上がろうとしたが、
 先生は私の両肩に手を置いて再び座らせる。

 まだ、立っちゃまずかたかな?

「まだ、罰を受けていないだろう?」
「へっ?」
「うむ。考えたのだが、お前にはこれが丁度良いだろう」

 そう言って先生は杖を振る。
 今度は杖からもくもくと煙が出てきた。
 ……先生の杖はどうなっているのだろう。

「次の私の授業からはこれを着て来るように」

 ばっと差し出されたもの。
 それは…………。

「……マハード先生。これ何ですか?」
「これが何かわからぬお前でもないだろう。
 ブラック・マジシャン・ガールの衣装だ」


 ………………

 ………………………

 …………………………………


「サイズが合うかわからんが、とりあえず着てみろ」

 ずいっと衣装を私に押しつけるマハード先生。
 私は近づいてくるその衣装で、何とか再起動する。

「ええええええええええええええええええっ!?!?!?!?!?」
「静かにしろ。教室で騒ぐな」

 こんな衣装突きつけといて、教師面するなぁっ!

「なんでなんで!よりにもよってこの衣装!」
「世話のかかりそうなだからだ。
 ブラック・マジシャンの私としては、丁度弟子が欲しかったところだし、丁度良かろう」

 漫才の相方募集中だったの!?
 他を当たってよ!

 これは危ないと思い、私はばっと逃げ出し先生と距離をおいた。
 だが、先生はあっという間に私を壁際に追い詰める。
 嫌々と首と振っても、先生はぐいぐいと衣装を押しつけてくる。

「全く、世話のかかる奴だ」

 ぐぃっと私のあごを掴みあげると、自分の顔へと無理矢理向ける。

「私の目を見ろ」

 紫色の瞳に捕らえられ、私の体はその場に縛られてしまった。

「お前はブラック・マジシャン・ガールになる。
 お前はブラック・マジシャン・ガールになる」

 マハード先生はぶつぶつとひたすら何かを呟いていた。
 だが、私にはそれがなんなのかわからなかった。

「お前はブラック・マジシャン・ガールになる。
 お前はブラック・マジシャン・ガールになる」

 だんだん意識が遠のいていく。
 私は今、何処にいるの?
 私は一体、
 一体、誰?

「お前はブラック・マジシャン・ガールだ!」
「いえ、です」

 ふいに、視界がもとに戻る。

「マハード先生。いい加減弟子捜しは諦められた方が良いかと」
「イシズ。私は最後まで諦めない。
 私亡き後、私を継ぐ者を見つけなければならないのだ。
 この決意は変わらぬ」
「それでもは駄目です」

 ぴしゃりと言ってのけると、イシズは片手でマハード先生をどけた。
 そして優しく私の手を取る。

「さぁ、行きましょう
「……イシズ」

 ……見捨てられたと思ったよぅ。

「ありがとう」



 イシズに連れられて、私はようやく教室を出た。
 後ろから何か聞こえてきたけど、イシズが振り向くとその声はぴたりと止む。

。私達の担任はコスプレ変態教師です。
 今後も気をつけなければなりませんよ」
「うん。でもまた助けてくれるでしょ?」

 繋いだ手をぎゅっと握って笑顔で問いかける。
 







「逃れられない運命なら、私は諦めます」













 残念ながら、望んだ答えは得られなかった。

 ……ひ、ひどいよ。






-Powered by HTML DWARF-