デュエル学園シリーズ
盗賊ごっこ
「あー!疲れた!」
ぐてぇ〜っと。
私は、部屋のベッドに身を沈める。
私は今まで海馬とタッグ戦にむけて特訓してきたのだ。
体力的にも精神的にも疲労しきっていた。
「だいたい。総代表と半日二人っきりっていうのが耐えられない。
特に精神的に!」
あぁ。何か癒しが欲しい。
ここに来てから、癒されないことばかりだよ。
「そんなに辛いんなら、俺様が手伝ってやるよ」
「えっ……!」
急に背が重くなった。
起き上がろうにも、私はベッドに押さえつけられたまま動けない。
だが、振り向けなくても、私には声で犯人が誰なのかわかった。
「バクラ君重い!どいて!」
「おいおい。いいのか?この俺にそんな口きいて」
ぎゅうっと、さらに重みが増した。
くっ……くるしい。
「ずいぶん。つれないじゃねぇか」
バクラ君の顔がすぐ傍にあることがわかる。
耳元に軽く息がかかる。
「ひゃっ……!」
「あぁ。そういや、耳元は苦手だったんだよなぁ。
……くくく。それじゃ、ついでにサービスしてやるよ」
…ぞくり…
私の首元を生暖かい何かが這った。
そう、それはバクラ君の舌。
「ちょっ……!いや…くすぐったい!やめて!」
「うるせぇな。……少しは喜べよ」
ようやく、バクラ君の束縛から解放され、私は急いで距離をとる。
「一体何のつもり!」
「まぁ、そう怒るなよ。俺はお前を手助けしに来てやったんだからよぉ」
「……手助け?」
「海馬のパートナーになったせいで、ストレスが溜まっているはずだぜ。
無理もねぇ。あの海馬だもんな。
おまけに、ヤツにデッキを押しつけられたんだってなぁ。
デュエリストにとってこれ以上ないってほどの屈辱だろ?」
「くっ。確かにそうだけど」
……それは私がデュエルで負けたから。
「これが、海馬のデッキか。香水付きとは趣味の悪い」
ベッド脇に置いてあったデッキを手に取るなり、バクラ君は投げ捨てた。
「テメェがデュエルで負けたのは知ってるぜ。
だが、このままで良いのかよ?」
「……良いわけじゃ……ない、けど」
「そうだよな。なら話は早ぇ。
おい。もう一度ヤツと条件付きでデュエルしな」
「なっ!」
もう一度デュエル!?
「そんなデュエル、総代表が受けるはずない」
私達のデュエルはすでに決し、今私が彼に従っているのは、敗北者の条件。
「わかってねぇな。受けさせる状況にすんだよ。
いいからつ付いて来な!」
バクラ君は私の手を引き窓へと向かう。
……て、窓?
「ちょっとバクラ君!来なって、そっちは窓なんだけど!」
「……あのな。一応ここは女子寮だぜ。
男の俺が堂々廊下歩けるわけねぇだろ」
私の部屋には堂々と入ってきたくせに!
「……まさか。ここから?」
「何ビビってやがる。2階からならそのままいけるだろ」
「私!階段で下りてから行くから!」
「めんどくせぇ。それに逃げんだろ?」
ひょいと、バクラ君は私を軽々と横抱きした。
「!?!?!?!?!?」
ちょっと!その細腕の何処にそんな力あるの!
「そらよっと」
地面に着地するまで、そう時間はかからない。
しゃがんだ時に、やたら顔が近くて焦る。
「何魅入ってやがる。行くぞ」
顔が少し熱い。
半ばぼーっとしたまま、バクラ君に手を引かれるままついて行く。
それが、間違いだった。
「そろそろ日没だな。手はず通りやるぜ」
「誰がやるかぁぁぁっ!」
私は今現在、オベリスク・ブルー男子寮のバクラ君の部屋にいる。
「うるせぇな。ここからなら海馬の部屋も近いだろ。楽勝じゃねぇか」
バクラ君がたてた計画。
それは、バクラ君の部屋を拠点に総代表の部屋に忍び込み、何かしら弱みを握ってやろうというのだ。
「これって私関係なくない?
バクラ君が個人的に嫌がらせしたいだけじゃないの?」
「何言ってやがる。ちゃんと利害一致してんだろ。
俺はアイツに嫌がらせせきて、お前は再戦を申し込める」
「でも、忍び込むなんて……!しかも…………総代表相手に」
「だからこそ、ぞくぞくすんじゃねぇか」
私の肝はそんなに据わってない。
「冗談じゃない!私もう帰る!」
「へぇ。ただで俺様の部屋から出られると思ってんのか?」
部屋から出て行こうとする私の腕を掴み、引き寄せる。
「俺はぞくぞくするほどの快楽が味わえれば、別にどっちでも良いんだぜ?」
私は後ろから抱きつかれたまま身動きがとれず、ただ固まる。
「な、……何を」
「さぁな」
片方の手が私の太ももを撫でる。
「やっ……!」
ぞくぞくと嫌な感覚が全身に広がる。
同時に、足からは力が抜け、私はその場に膝をつく。
「なんだよ。こんなんでギブアップか?だらしねぇ」
恐怖で体が思ったように動いてくれない。
バクラ君はそれを理解して、にやりと嗤う。
彼のなすがままに、私の体は床に倒された。
「で、どうすんだ?俺はどっちでも良いんだぜ?」
胸元のボタンを外し、バクラ君は顔を埋める。
チロチロと舌で舐められるのが伝わる。
「やぁっ!……わ、わかったから……!行くから!」
「なら、行くぜ」
あっさりと私の上から身を退け、バクラ君はベランダへと移動する。
私は起き上がると、服の乱れを直し、急いで彼に続く。
ベランダを通れば、総代表の部屋はすぐそこらしい。
「……バクラ君。仕切りがあるよ」
「んな板っきれ、俺には関係ねぇよ」
バクラ君はどこからか、ドライバーを取り出し、仕切りの留め具を外してしまった。
「バクラ君、手慣れてない?」
「うっせぇ。てめぇは黙ってろ」
音を立てぬように注意を払いながら、仕切りをどける。
「この先の窓から中へ入るぜ」
当然、窓にも鍵がかかっている。
だが、バクラはコンパスのようなものを取り出すと、綺麗に円状の穴をあけてしまった。
「あの……窓ガラスに穴開けて良いの?」
「こうしねぇと入れねぇだろ」
「でも、私の部屋には普通に入ってきたよね?」
「それは、てめぇが鍵かけ忘れてただけだろ」
う、そうかも。
「さぁてと。まず、何からしてやろうか」
とか言いながら、バクラ君はさっそく机の引き出しや、本棚をあさりはじめた。
私は何をして良いのかわからず、ただ部屋を観察する。
「……すごい。ブルーアイズだらけ」
ベッドも机も本棚もゴミ箱までもがブルーアイズ。
天井を見れば、ブルーアイズが空を羽ばたいている絵が描かれている。
ふと、テーブルにある写真が目に入った。
総代表が黒髪の少年の肩を抱いて微笑んでいる。
え……微笑んでる?
あの……総代表が??
「…………」
総代表は黙っていれば格好いい。
告白した女子も多いらしいが、ことごとく玉砕していると聞いたことがある。
もしや……。
「総代表……そっち系の人だったんだ」
女の子に興味ないはずだよね。
私が一人納得しうなずいていると、いきなりドアが開いた。
「貴様ら!何をしている!」
「…………!」
部屋に入ってきたのは、こめかみをひくつかせた総代表だった。
……これはやばい。
「ヤベェ見つかった!ずらかるぞ!」
本日何度目だろうか。
私はバクラ君に手を引かれベランダへと走る。
「逃がすか!」
総代表は手持ちのカードをこちらに放ってきた。
て、えええええ!危ないから!!
「……ちっ!」
「きゃぁ!」
ドンと押しのけられて、私はたまらず尻餅をついてしまった。
一言文句を言ってやろうと、バクラ君を睨み付けようとしたが……。
「あれ?」
バクラ君の姿は見あたらない。
瞬きしたその時、ベランダの向こうから大きな波しぶきが一つ聞こえてきた。
「……まさか!」
急いで身を乗り出し、彼を捜す。
だが、私の目に映ったのは暗闇の海だけだった。
「バクラ君!」
「何をしている!」
後ろから引っ張られ、私の視界から海が消えた。
「貴様も落ちたいのか!」
貴様もってことはバクラ君は……。
「バクラ君は落ちたの!?」
「心配などいらん。どうせヤツは生きてる。
無駄に悪運は強いからな」
……確かに、悪運は強そうだ。
「……それよりも」
ぐいっとあごを掴まれ、総代表と目が合う。
「なぜ貴様がここにいる」
「え…と……」
「フン。大方、バクラにでもそそのかされたのだろう」
「……ハイ。全く…その通りです」
「罰するべきはバクラなのだろが、お前も同罪だ。
バクラは自滅したことで許してやるが、お前には罰を与えねばならんな」
「ちょっと!私は……!」
「ふぅん。どうしてやろうか」
上から下まで私を見、総代表は考え始めた。
ややあって、総代表はあろう事か、私を自分のベッドへと引きずってゆくという、
有り得ない行動に出た。
「よく考えてみろ。夜中異性の部屋に訪れるなど、夜這い以外の何物でもない。
据え膳食わぬは男の恥。ならばお前の全てを食してやる。有り難く思え。
フハハハハハハハ!」
私の体はぼふっとベッドに放られ、その上には総代表が覆い被さるように身を置いた。
総代表からも布団からも香水の香りして、私の意識は遠のいてゆく。
バクラ君に押し倒された時とは違い、足掻くことすらできない。
「ふぅん。抵抗もできぬか。ならばされるがままに、俺に身を任せていればいい」
艶やかな吐息がすぐ傍まで来ていた。
あともう少しで触れるというところで、携帯の着信音が部屋に木霊した。
この着信音は私の携帯でない。
「フン。タイミングの悪い」
携帯のディスプレイを確認した後、総代表は私の上から身を退けた。
「帰りたいのなら帰れば良い。このまま朝までいても構わんが、
クックックッ大騒ぎになりかねんな」
「か、帰るわよ!」
総代表はスーツを持って、そのまま部屋を出て行ってしまった。
はっ!しまった!
もう夜なのに、どうやってオベリスク・ブルーの男子寮から出ればいいの!
しかも、ここ4階だし!
どうしよぉ!
さよならバクラ。
大丈夫。バクラは闇そのものだからね♪