デュエル学園シリーズ

バレンタイン






 バレンタイン。
 それは、女性が三倍返し(海馬君には三乗返し)を期待してチョコを贈りつける日。

は誰にあげるの?」

 今日は杏子と二人でチョコレート作り。

「えーとね。とりあえず。杏子と舞とイシズと……」
「あっ。私にもくれるんだありがとう!私ものために作るよ!」
「わ〜楽しみ♪」

 女友達でのチョコレート交換は、もはや当たり前。

「そういやさ。はパートナーの海馬君にチョコあげないの?」
「…………一応、社交辞令も兼ねて贈るよ。すごく贈りにくいけど」
「ま、確かに贈りづらいけど、贈らないと文句言ってきそうよね。あげても文句言いそうだけど」
「……ホワイトデーに、三乗で返してくれることを期待するよ」

 何を返してくるのかも怖いけど。

「私もパートナーにも贈るとして、あとは先生かな?も先生には贈っといた方が良いよ」
「先生?」
「成績が心配だったら、一応贈っといた方が良いよ」
「成る程」

 そう言えば、授業中昼寝ばっかでよく怒られてたっけ。
 成績は少し甘めに見て下さいってお願いしてみよう。

「で、杏子は本命チョコは誰にあげるの?」
「なっ……!」
「今のうちに白状しちゃいなよ〜」
こそ!本命はどうすうるの?」
「ん?本命は杏子に決まってるじゃない♪」
「じゃぁ私も本命はってことで」

 むぅ。嬉しいけど残念。

「ま、後はお友達ってことで遊戯君達にも贈ろうかな」
「私も。城之内なんかはいじけてたしね」

 あ、そうだ。
 バクラ君にはどうしよう。
 意地悪ばかりされたけど。

 う〜ん。もてるだろうからなぁ。
 きっといっぱいもらうんだろうなぁ。
 う〜ん。う〜ん。
 あげなかったらあげなかったらで、なんか意地悪されそう。



 悩んだ末、一応一個余分に作ってしまった。












 最初に女友達の分を配って、次に杏子と一緒に、オシリス組の遊戯君達の分を配った。
 小さかったけど、それなりに喜んでもらえた。
 ……特に城之内君は、すごい喜びようだった。

 そして今は一人、オベリスクの、つまり自分の寮に帰ってきていた。

「う〜ん。総代表は……なんか捕まりそうにないなぁ」

 妥当なところで、マハード先生の所に行くことにした。



「マハード先生いますか?」

 がらりと、先生の部屋のドアを開けると、すでに女子生徒がきゃーきゃーと群がっていた。
 先生はコスプレ変態教師だけど、顔は良いため人気があるらしい。
 ちなみに、今日も相変わらずのブラックマジシャンの衣装だ。

か。お前も私にチョコを?」
「あ、はい。……これでできれば……」

 成績の方をなんとかして下さい。

「ふっ。みなまで言わずとも私にはわかっている」

 さすが先生♪

「ホワイトデーには、ブラックマジシャンガールの衣装をプレゼントしよう。
 もちろんステッキや魔道書などのオプションもつけてやる。心配するな」

 さすが先生。全然わかってないね。

 きらりと笑顔を向けられた。それで何人かの女子が倒れたが、私には関係ない。

「先生。ホワイトデーいりませんから」

 バシッとチョコを勢いよく先生の顔めがけて投げつけて、私は先生の部屋を後にした。
 後ろから先生の声が聞こえたけど、もう知らない。





 

 さて、あと問題なのは総代表の海馬君。

「彼にはどうせ近いうち会うしな〜」

 タッグ戦の特訓が明日の夕方あったはず。

「別に今日渡さなくても良いかな」

 先程見かけたが、まるで台風の目だった。
 あんなひん曲がった性格だけど、顔は良いし将来有望株だし、三乗返しときている。
 ほとんどの女子はあげるのだろう。

「だったらチョコじゃなくて、別のものをつくれば良かったかな」

 甘いものはもううんざりだろうし、いっそのことセンベイとか。
 でも、もう今更遅い。
 嫌がられてもチョコを贈るしかない。

 とりあえず、無謀とはわかっていても女子の群れに突進してみた。

 が、


 あっけなくはじかれてしまった。
 ……これは、無理。
 女子って怖いな。
 
「う〜ん。明日渡そう。……怒られそうだけど、仕方ないよね。
 どう考えても無理だし」





 私の鞄に残った二つのチョコ。
 一つは総代表。もう一つはバクラ君。

 別にあげたいって気持ちはなかったけど。
 どちらも、用意しなければならない脅迫概念のようなものがあった。

 総代表は、明日渡すとして。
 バクラ君は……今日一日、見ていない。

 バクラ君ももてるはず。
 女子の群がりができているはずなのに、見かけない。
 ……おかしいな。

「ま、別に贈らなくても良いよね。私が自分で食べちゃっても全然問題ないし」


 こうして、私は自分の部屋に帰ってきた。
 どうやらイシズは先生達にチョコを配っているらしい。

 そういや、成績に関係ありそうな先生は全員配るっていってたっけ。
 ならば、当分帰ってこないだろう。

 一眠りしようと、自分のベッドを見て、私は固まった。

「え……」

 すぅすぅと寝息をたて、気持ち良さそうに寝ている白ウサギのような人物。

「あの……バクラ君?」

 なぜ、私のベッドに?
 てか、ここ女子寮なんだけど!



 ふむ。見つからなくて当然だよね。
 まさか私の部屋にいたとは。

 ……いやいや、そうじゃなくって!
 


 そっと近付いて、彼の髪に触れてみる。
 あ、以外とさらさらだ。

 う〜ん。日頃の仕返しに、落書きの一つでもしてやろうかと思ったけど、

「……この寝顔は反則だなぁ」

 まさか、このバクラ君を可愛いと思える日が来ようとは。
 あ、そうだ。写メ撮っておこう。

 パシャリ。

 静かな部屋にシャッター音が響く。



 どうしよう。意外と音が大きかった。

 起きちゃったかな?
 そろりと、顔を覗きこんでみたけど、変わらない穏やかな寝息をたてている。

 なんだかおかしくて、私は小さく笑う。

「ねぇ。まだ寝てるの?」

 にやにやとしながらバクラ君の顔の前で手をひらひらと振ってみる。

 反応なし。

 相当疲れてるのかな?

 これ以上は可哀相かと思い、そっと離れようとした時。

 

 かぷり。

 



 バクラ君の顔の前に差し出していた手の先に、僅かな痛みを感じた。
 見れば、いつの間にか彼の目は開かれており、私の指を噛みついていた。

「いっ……!」

 生暖かく、ぬめっとしたものを指先が感じる。
 思わず身を退こうとすると、伸びてきた手に捕らえられ引き寄せられる。

 指から生暖かいものが離れたは良いが、彼の唇が目の前に迫っていた。

「……バクラ君?」
「人が寝てる隙に、随分色々とやってくれたじゃねぇか。
 俺様の撮影代は高くつくぜ」

 甘く、低く、彼は耳元でそう囁いた。

「え、ええええと。何のことかな?」

 こ、これはやばい。

「チッ。もっと上手に撮りやがれ。
 せっかく色っぽくしてやったのに、これじゃ俺様の魅力半減じゃねぇか」

 いつの間にか私の携帯は彼の手の中に。

 て!あの寝顔はわざとですかっ!

「さてと、こんなんでも撮影代は頂かねぇとな」

 こんなの詐欺だっ!
 と、叫びたかったけど、そんなことは叶わない。よって、

「こ、これでご勘弁下さい」

 と下手に出るしかなかった。
 
 私が差し出したのは一応作ったバクラ君用のチョコ。
 彼はそれをつまらなさそうにしげしげと見つめると、懐にしまった。
 にもかかわらず、

「これじゃ足りねぇな」

 などと、ほざいた!
 ふざけるなっ!

 いや、寝てるところ色々してた私も悪いけど、私の部屋に無断で入って寝てるバクラ君がそもそも悪い。

「ま、足りねぇ分はお前の身体で払ってもらおうか」
「ちょっ!……っぅ!」

 かぷり。

 と首元に生暖かい痛みが走る。
 歯が皮膚に刺さり、痕ができる
 吸い上げられた皮膚は赤くなり、残る。

「……い、痛い」
「これくらいで済むんだ。我慢しろよ」

 痛みを和らげるように、バクラ君は舌を這わせる。
 何度も何度も。
 その度、体中にぞくりと何かが走る。

 虐められ続けられた首元の皮膚がひりひりと痛い。

「なんだ。この程度で泣くのかよ。だらしねぇ」

 気がつくと、私の瞳からは雫が流れ落ちていた。
 ぺろりと彼の舌が拭う。

 その後の事はあまり覚えていない。

 ただ、ずっと抱きしめられていたという以外は。









 いつの間にか、夜になっていた。
 イシズが傍で優しく微笑んでいた。

 バクラ君の姿がなかったので、イシズに聞いてみると。

は知らなくても良いのですよ」

 黒い笑顔で答えられたので、もう聞かないでおこうと思った。














 イシズは自分の見た未来の先生にもチョコを用意してればいいと思う。
 海馬君は次回あたり、チョコがもらえなかったことを怒っていればいい。
 バクラ君は噛み付き癖があればいい。
 マハード先生はホワイトデーで暴走すればいい。


 なんて、妄想大爆発です。
 イベントものを書いたのは初めてですが……どうしよう楽しい。




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