デュエル学園シリーズ

一石二鳥






「ふぅ……そろそろ新しいカード欲しいなぁ……」

 昨日の放課後、また総代表の海馬瀬戸に負けた。
 それはもうあっさりと。
 おまけに、その後散々「この俺のパートナーとしての自覚があるのか!(以下省略)」
 と、お説教をくらった。

 悔しかったので、改めてデッキを組み直したものの……ぱっとしない。

「最近、調子悪いんだよね」

 気分転換も兼ねてカードを買いに行こうかと、財布を手に取ってみるが、
 その軽さに涙が出そうだ。

「この前、杏子と舞さんでケーキ食べに行っちゃったからなぁ……うぅ……残金が……」

 ケーキの誘惑はあな恐ろし。
 
「…………もう、やだ」

 ごろんと寝っ転がった。



 コン、コン


ーいる?」

 あ、この声は舞さんだ。

 ぴょんと飛び起きてドアに走る。
 ドアを開けると、やっぱりそこには金髪美人の舞さんだ

「どうしたの舞さん?」
「この前借りてた本返しに来たんだけど……もしかして寝てた?」

 どうやら寝転がった時に、髪がぼさぼさになってしまっていたらしい。
 あわてて整えた。

「んと。寝てたわけじゃないんだけど……」
「いつも元気なが一体どうしたのさ」
「実はね……」

 せっかくだから相談に乗ってもらうことにした。

 最近デュエルの調子が悪いこと。
 気分転換にカード買いに行こうとしたらお金がなかったこと。
 ケーキの誘惑は恐ろしいということ。

 最後まで聞くと舞さんは、なにやら考え込んでしまった。

「……そうね。丁度良いかも、しれないわね」
「なにが?」
「この前行ったスイーツの店覚えてる?」
「……忘れもしない。あの美味しさは何度も通いたくなる永続トラップ」

 本気で答えたら、舞さんに軽くデコピンを喰らってしまった。

 ……だって、本当なんだもん。

「その店なんだけど、今人が足りてなくてバイト募集中らしいよ?」

 パァァ……とフィールド魔法『天使の聖域』が発動。
 ……したような気がした。

「それ本当舞さん!」
「嘘言ってどうなるのよ」
「私、雇ってもらうように頼んでみる!」

 お金も貯まって、カードも買える。
 おまけに、大好きなスイーツの店のバイトときた。
 もしかしたらケーキが食べられるかもしれない。

 善は急げ!

 私は部屋を飛び出して、永続トラップ…もといスイーツの店に向かった。

「あ。ちょっと待って!その店なんだけど……って、
 もう遅いか。ま、大丈夫よね」









 期待を胸にスイーツ店へ直行した私。
 
「すみませーん。バイト募集って聞いたんですけど……げっ」
「いらっしゃいま……て、なんだお前かよ」

 店内に入ってすぐ、店員の顔を見て凍り付いた。
 スイーツ店のユニフォームを着てるけど、この長い白髪は私のよく知ってる人物で……。

「し、失礼しましたー」

 回れ右をして走り去ろうとしたら、店員に問答無用で右腕を掴まれた。

「おい待てコラ。人の顔見るなり帰るなんて良い度胸してるじゃねーか」
「バクラ君。なんでこんな所に……」
「見てわかんねーのかよ。バイトだよバイト」

 この上なく似合わない。
 あの、バクラ君が甘いお菓子に囲まれてバイトしてるなんて……。

「お前もバイト募集の張り紙見たんだろ?」
「いやいや思いとどまりましたとも!もう帰ります!では……って放して!」
「そう逃げんなよ。人手足りてねぇのは知ってんだろ?」
「あわわわ……」

 ずるずると、会話しながらも私の体は店内の奥に引きずり込まれていく。

「おい店長!新しい店員連れてきたぜ!」
「またそうやって君は乱暴ばっかり」

 そう言って出て来た白い人は、随分若くて……

 あれ?白い?
 なんか雰囲気違うけど……バクラ君?

「こんにちはお嬢さん。店長の了です」
「……了さん?あのバクラ君とは」
「あぁ。これとは双子なんだ」

 バクラ君を笑顔でコレ扱いかぁ……。

「なに笑ってやがる」
「いや……なんか似てるけど似てないねって思って……」
「……ほぅ」
「イタタタタ……ごめんってば!イタタタ……!」

 容赦なく左頬をつねられて痛い。

「だから、乱暴は良くないって。折角の可愛らしい顔が台無しじゃないか」
「フン。もっと可愛らしくしてなるようにしてやってんだよ」
「ほら。もうやめなよ」

 了さんはやんわりとバクラと私の間に入って来て、バクラの手を放してくれた。

「ごめんね。あぁ少し赤くなってる」

 そうっと私の頬を撫でる仕草。
 そして、さっきのやんわりとした動作。
 まるで…………

「……王子様」
「ぶっ……!」

 思わず呟いたその一言に、失礼にもバクラ君が吹いた。
 聞き間違いかと言わんばかりにぎょっと目を見開いて、こっちを見ている。
 ……ちょっとヒドイ。

「え?何か言った?」 

 本人には聞こえてなかったようで、再度問いかけてくる。

「いえ!何も!」

 よくよく考えてみれば、なんて恥ずかしいことを……!
 うぅ……絶対今顔赤くなってる。

「そういえば、君はバイト募集を見て来たの?」
「えっ?」

 あ、そういえばそうだった。

「それとも。この馬鹿に無理矢理連れてこられたの?」
「……おい店長」
「君は黙っててね?」

 バクラ君<了さん

 という関係らしい。

「……あの了さん。私ここで働きたいんですけど」
「お前さっき嫌がってたじゃ……ぐはっ……!」
「だから、それは君が乱暴したからだろう?」

 バクラ君の腹に一発、了さんの拳が入る。
 その動作もどことなく優雅で素敵だなぁ。

「ありがとうお嬢さん。…えとお名前は?」
です!」
「そう。ちゃんね」

 ちゃん付けか……なんかこう、むずがゆい。

「ごめんね。人手不足で結構入ってもらうことになるけど大丈夫?」
「はい。任せて下さい了さん!」

「なんか……納得いかねぇ……」









なんか。この話だけ続きそうです。


メイド喫茶的なのりで、バクラがお客さんでも良かったんだけど。
バクラに「いらっしゃいませ」って言ってもらいたかったのです。
バクラにスイーツ持ってきてもらえたら、この上なく幸せだろうな。






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