参加お題

消毒




「よう。遊びに来てやったぜ

 そう言って窓から現れるのはいつものこと。


 雲の狭間から漏れた月明かり。
 彼の綺麗な銀髪を照らす。

「……あのねバクラ。何回言ったらわかるの?
 勝手に人の部屋に入らないで、しかも窓から!」

 いつも通り、ピシャリと叱る。


 ……効果は無いけどね。


「どうせ玄関に回っても、テメェは鍵開けねぇだろ」
「当たり前じゃない。……って、せめて靴の泥落としてよ馬鹿!」

 さすがに、靴は脱いで入って来たバクラだったけど、彼の靴には泥がついていた。
 さっきまで雨が降っていた。
 バクラの黒コートを見れば少し濡れている。

「ほら。タオル貸してあげるから」
「風呂使うぜ」
「……勝手にすれば」

 ………まったく。
 ここが人の家だということを、わかっているのだろうか。

「ん?お前、その手どうしたんだ?」

 タオルを渡す時に目に付いたのだろう。

 私の右手に走る赤い線。
 買ったばっかりの調理器具の端で、傷つけてしまったところ。

「……あんたが、いきなり現れるからいけないのよ。
 うっかり、手が滑っちゃったわ」

 もう片方の手でその傷を軽く覆って、バクラに見えないようにした。

「そいつは悪かったな」
「……素直に謝るなんて珍しいじゃない。てっきり馬鹿にすると思ったわ」
「フン。今日は気分が良いんだ。ほら、その傷見せてみな」

 私の右手をとると、バクラは顔を近づけ、まじまじと傷を見つめた。

「ねぇ。バクラ」
「なんだよ?」

 見ようによってはこの体勢、騎士がお姫様の手を取っているように見えなくもない体勢。

 でも、私はお姫様でもないし、手を取っているのは騎士とはかけ離れているバクラだ。




 それに、……。




「……あんた。お酒臭くない?」
「当たり前だろ。さっきまで飲んでたんだからな」
「おまけにタバコ臭い!」

 私はテーブルに置かれた一本のスプレーを手に取ると、バクラめがけてワンプッシュ。

「ぶわっ!何すんだてめぇ!」
「除菌もできる消臭スプレーで消臭中」

 プシュッ。プシュッ。プシュッ。

 狙いを定めたまま連射する。


「オイ!やめろって!」
「だったら早くお風呂入ってきてよ。服は洗濯したげるから」

 ぶつくさ言ってるバクラを風呂場に押し込んで、私は一人台所でため息を一つ。





「……あぁ。もう。馬鹿バクラ」





 そう簡単に甘い展開に持って行きたくなかったのですよ。
 両者そろって、フラグ破壊してれば良いのです。



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