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ミニ四駆学園

寄り道



「……で、なんでこうなるんだ」

 思わず不機嫌オーラ全開で言ってしまう。




 学校の帰り、私はブレットに連れられファミレスで食事することになった。
 まぁ、クラスメイトだし、ブレットとはそれなりに仲が良い。
 だが、

「なんでお前が……」
「それは私の台詞だ」

 ファミレスに入るなり、エーリッヒと………シュミットの二人と遭遇。
 シュミットは私の顔を見るなり、顔をしかめる。

 ……顔をしかめたいのもこっちだ。

 ブレットは軽く挨拶して、そのまま二人と同じ席へ着いてしまう。
 まるで、初めから一緒に食べることを約束していたかのように、ごく自然に。

「どうしたんだ?まぁ座れよ」

 ブレットが私に座るように促す。

 ……もしかして、私はココに座らなきゃいけないのか?

 エーリッヒとシュミットは二人向かい合うように座っていた。
 空いていた席は当然、エーリッヒかシュミットの隣になるわけで、

「……ブレット。なぜそっちに座る?」
「おや、何か問題でも?」
「シュミットの隣はごめんだ」
「あぁ、シュミットとは正面から向かい合って座りたいって?大胆だな
「いや、全く違う」

 ごごご、と怒りのオーラをブレットに放出して脅してみるも、彼には全く効果がないようだ。いつも通り、不敵な笑みを浮かべているだけだった。

「それに、私は彼らが一緒だとは聞いてないが?」
「あ、すみません」
「違う違う。エーリッヒは別に良いんだ。……お前じゃなくて、その隣」

 ふと、その隣に視線を向けてみれば、ぎろりと睨まれる。

「こっちだってお前が来るなんて聞いてない。……嫌なら帰ればいいだろう」
「ちょっとシュミット失礼ですよ」
「俺は親切で言ってるんだ。この場にそぐわないのはわかっているだろう。無理して付き合うことないじゃないか」

 一体、いつまで根に持っているんだか。

 でも、よく考えればシュミットの意見にも一理あるかもしれない。
 いや、けしてシュミットの意見に賛成したわけではないが、

「……確かに、私は居づらいな」
「……え」

 ……自分で言っておいて、何故驚くシュミット。

 何だかんだと言って、彼らは昔なじみで、仲の良い男友達で……。
 正直、私は居づらい。

「別に、そんなことは……何てこと言うんですかシュミット!」

 エーリッヒが叱ればシュミットは罰が悪そうな顔をして、ぷぃと逸らす。
 ブレットは私の発言が意外だったらしく、

「おいおい。お前らしくないな。どうしたんだ?」

 と、珍しく、心配そうに聞いてきた。

 ……それはつまり、いつも私は空気読まないヤツと思われていたということかな?

「いや、別にそいつの意見を真に受けたわけじゃない。昔なじみの集まりに、私が顔を出すのは野暮だろうと思っただけだ」

 私はそれだけ言って店を出ようとするが、「待って下さい」とエーリッヒに引き留められる。

「ま、そんな顔をするなエーリッヒ。またの別の機会にでも、どこか一緒に食べに行こう」


 エーリッヒにはいつも苦労かけるな。
 なんて思いながら、私は店を出た。


 大分、日が沈むのが早くなってきた。
 吐く息がほんのり白い。

「……寒いな」







 そんな事があった三日後。

「Hey。今日、放課後一緒に食べて帰らないか?」

 またしても、ブレットに誘われる。
 だが、前回みたくあっさりとその誘いにはのらない。

「……なんだまたか?どうせ、またあいつらも一緒なんだろう?」
「不満そうだな。そんなに俺と二人きりで食事したかったのか?」

 だから、どうしてブレットはそう言うのか。

「あいつ、……シュミットと一緒は嫌だ」
「……そうか」

 ブレットからいつもの調子が消えた。
 しん、と冷たくて重い空気が降りる。

 間。

 数分ほどだ。けれど、随分と長い。
 ブレットの顔は見ない。見れない。

 彼は今きっと、いつものように笑ってはいない。

 次に口にされるのはいつものような冗談じゃない。
 とても、真剣なもの。

「俺はを気に入っているよ」
「……そいつはどうも」
「でも、シュミットのことも気に入っている。昔から好きだった」



「……………………………」





 これは、どう反応しろと言うのだろう。
 まぁ、待て。落ち着け私。
 少なくとも今、この空気はギャグとか冗談をいう空気ではない……よな?
 なら、今の一言は本気と捉えるべきだろう。
 とするならば……

「どうした?」
「……いや、なんでもない。続けてくれ」

 ……そうか。うん。よくわかったよ。わかりたくもなかったが。
 つまり、さすがはアメリカンとでも言えばいいのかな。

とシュミットの仲が良くないことは知っている。だが、折角の学生生活だ。どうせなら楽しく過ごしたい。だから……」
「……いや、もういい。わかったから。放課後私も参加させてもらおう」
「本当か?」
「あぁ、シュミットには及ばないほどの短い付き合いだが、私もお前の友人だ。折角の学園生活。うむ良いではないか。私も協力しよう」
「…………?まぁ、thanks。そうと決まれば行こうか、少し待たせてるかもしれない」
「……そうだな」

 いつもの笑顔を取り戻したブレットを見てほっとする。
 大人びているとはいっても、やはりお年頃というやつだったんだな。
 なんだ、ブレットにも可愛いところがあるじゃないか。

「どうした?何を笑っている?」
「いや、気にするな」
「そうか」

 だが、ああ言ったものの、シュミットはやはり苦手だ。
 ……正直何処が良いんだって気もするが……。

 ……だが、他ならない友人ブレットの頼みだ。仕方ない。
 友人としてできるだけ協力してやる

 打倒シュミット!


 ……いや、少し違うか。











 そんなこんなで、またもやファミレスへやって来た私。
 今回はすんなりと座ってやった。
 あぁ、座ってやったとも。

 席順は前回と同じ。
 シュミットとエーリッヒは先に来ていたから、二人向かい合わせに座っていた。
 んで、ブレットが、シュミットとは向かい合ってしゃべりたいだろうから、エーリッヒの隣に……。
 よって私は、シュミットの隣、正面にはブレットだ。

 別に、隣でも良いんじゃないか?
とブレットに聞きたくもなるが、会話する事を考えると、隣は話しにくいらしい。

 座るときに、ヤツには眉をしかめられたが、大人になれ私、無視だ無視。
 ……我慢してやるとも。



 と、我慢していられたのも束の間。

「パフェにケーキって!どんだけ食うんだ!しかもおやつばっかり!」
「別に良いじゃないか。好きなものを好きなように頼めば」
「……太るぞ」
「黙れ!レディにたいして失礼だぞ!」
「自分で言うな!」

 できる限り、我慢はしたさ。
 でも、限度ってあるだろう?

「……ブレット。何とかして下さい」
「ふぅ……俺は連れてくるだけで、結構疲れた。後は任せる」
「……そんな、あぁ二人とも店員さんが困ってますよ!」

 ……確かに。
 ふと横目でみたら、店員さんが困っている。
 これはこれは、この馬鹿のせいで申し訳ないことをしたな。

「やかましくしてすまないな。注文は以上だ」
「……か、かしこまりました」
「おい!」
「あぁ、うるさいな。店員さんに迷惑だろう」
「……くっ!おのれ!」

 ふふん。と少し勝ち誇った笑みを浮かべてみる。
 すると、ヤツは本当に悔しそうな顔をする。
 はは、ゆかいゆかい。


 まぁ、こんな感じで四人仲良く(?)ファミレスで過ごしたわけだが……。

 さてと、そろそろ良いだろう。
 わざわざここに来た目的を果たさないとな。

「悪いがそろそろ私は帰らせてもらう。外も暗いしな」

 私がそう言って立ち上がると、ブレットが続いて立ち上がる。

「あぁ、だったら俺が……」

 送ろうかと、続く言葉を私は制した。
 馬鹿者。せっかく協力してやろうというのに、良いから黙って席に着いてろ。

「エーリッヒ。悪いが途中まで送ってくれないか?」
「…………なっ!」
「…………はい?」
「………………」

 妙な空気が流れた。
 確かに、帰る相手を指名するとか……ものすごく恥ずかしいことかも知れない。
 いや、普通に恥ずかしいだろう。

 何故か一番反応が早かったのはシュミット、ものすごく驚かれた。
 エーリッヒは、一瞬何を言われたのか分かっていないようで疑問符を浮かべている。
 ブレットは……、

「……おい、ちょっと」

 くいくいと引っ張られて、少し奥の方へと連れて行かれる。

「どういうつもりだ?」
「どういうつもりも何も、協力すると言っただろう?」
「…………は?」
「ま、エーリッヒは私が引きつけておいてやるから、頑張れブレット」
「…………」

 肩をぽんと叩いてやる。
 まずは、一歩前進かな?

 はは、珍しく緊張して固まってるとか。なかなか面白い。

「待たせたなエーリッヒ」
「……あ、いや……その…………」
「あ、もしかして迷惑だったか?」
「あ、いえそんなことは!!」

 うん。わかってる。エーリッヒは性格からして断らない。
 てか、断れない。

「じゃ、お先に」
「おい!エーリッヒ!」
「……す、すいませんシュミット。先に失礼させていただきます」

 ブレットとシュミットの二人を残して、私とエーリッヒは店を出た。
 よし、計画通り。
 ミッション・コンプリート!






「……あのさん」
「ん?」
「どうしたんです?」
「あぁ……エーリッヒには悪いことをしたかな?」
「いえ、そんなことは……」
「エーリッヒも友達だけど、ブレットも友達なんだ。ま、今回は大目に見てくれ」
「…………はい?」







 その頃、二人っきりにされたシュミットとブレットは……。

「ちょっ……!何故止めるブレット!」
「……ま、いいじゃないか。久しぶりに二人っきりになれたわけだし」
「何を気持ちの悪いことを……!」
「それとも、俺と一緒は嫌か?」
「……嫌ではないが、それよりもだ!こんな薄暗い夜道を男女が二人っきりで歩くなど!……しかも、エーリッヒを指名するとは、……破廉恥にもほどが……!」
「心配するな。はエーリッヒを襲ったりしない」
「……だ〜か〜らっ!…………あぁもう!いいから後を追わせろ!」
「……やれやれ」







 書き始めたら意外と面白かった。 特にブレットが。
 ごめんブレット。
 でも、絶対面白がると思うんだ。彼自身が。



 +αな話。 ※ブレットとシュミット視点

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