呪われてゴルバット
そりゃないぜ神様
トキワの森の中を彷徨うこと、約1週間。
何をどう間違えたのか、辺りには雪が積もっている。ここは、もうトキワの森じゃないかもしれない。
食料が尽き、木の実を拾い食いして、なんとか繋いでいたものの、もはや餓死寸前。
そんな私の前に、古びた小さな祠が見えた。注目すべきなのは、お供え物のおまんじゅう。これは神様からの施しだと、目を潤ませて、そのおまんじゅうを鷲掴み口へと放り込んだ。
……それが間違いだった。
『この罰当りめが!』
突然、地面が揺れ、雷のように鋭く威厳に満ちた声が落ちてきた。
目の前が真っ白になり、だんだん意識が遠のいていく。
***
目が覚めた時、自分の体に違和感。
祠に奉られている錆びた鏡を覗き見ると、化け物に成り果てた私の姿が、そこにあった。
鋭い牙にコウモリのような黒い羽、肌は青白くロウ人形のようだ。
「ちょっとちょっと……そりゃないんじゃない神様!」
餓死しそうな人間が、お供え物とったくらいで、この仕打ちあんまりじゃない!
私はその場に膝をついた。
これは夢。そう、夢なんだ。と、乾いた笑を漏らしていると、ふと人の気配を感じた。
『ポケモン反応あり』
機械的な音声が後ろから聞こえ振り返る。
雪景色に似合わない半袖をまとい、赤い帽子をかぶった青年がポケモン図鑑を手にして立っていた。肩には可愛らしいピカチュウが乗っている。
風で彼の短い黒髪がなびき、燃えるような赤い瞳があらわになった。それを見て戦慄が走る。本能が、コイツはタダ者じゃない、危険だ、気をつけろと、言ってる。
私は震える足を諌めながら立ち上がり、一歩二歩とあとずさった。
「……あ、あの……」
どうすれば良いのかわからず、言葉が出てこない。
普通に考えれば、迷っていた中で人に会えたのだから、喜ぶべきだ。
しかし、今の私の姿は化け物だ。普通に接して大丈夫かわからない。敵だと判断されて攻撃されるかもしれない。
そう思わせるのは、さっきから彼の私を見る目が怖いから。まるで獲物を見つけた狩人のよう。
彼は図鑑を私に向けたまま、無言で操作した。
『ポケモン反応あり。ゴルバット。こうもりポケモン』
……しん。
ゴルバット?何処に?
私は図鑑の指す方を見る。……私だ。そんな馬鹿なと後ろを見る。ゴルバットは勿論、ポケモン一匹いない。
彼は私を上から下まで見つめると、ぽつりと言った。
「……新種か」
いっ!?新種!?
逃げようとした時には遅く、彼はモンスターボールを放っていた。
「……いけフシギバナ」
逃げようとした私の前に、緑の巨体が立ちはだかる。
避けて通ろうと横へダッシュ。
「……逃さない。つるのムチ」
恐ろしい声を背で聞きながら私は走る。
しかし、片足に何かが絡まり、地面に倒れこんでしまった。見ればフシギバナのつるのムチがまきついている。
立ち上がろうとしたら、もう一本のつるが腰にまきついてきて、一気に引き戻された。
目の前には無表情な彼。
「待って!私ポケモンじゃ……」
「……ピカチュウ」
あるじの声に応えて、今まで静かに肩に乗っていたピカチュウが、地面に降りた。そして、その可愛らしい外見とは裏腹に、巨悪なオーラと電気を放ちながら私の前に進み出る。
「……電気ショック。軽めにな」
「いやいや!ちょっと待って!私は……!」
私の声が届く前に、ピカチュウの方が早かった。
全身を駆け巡る電気に、私は悲鳴をあげた。