呪われてゴルバット

正反対なやつら

お世話になったポケモンセンターを後にすると、私はレッドにシロガネ山の頂上へと連れてこられた。
何を考えているのかわからないけど、ここが彼の生活拠点らしい。

勿論、ゲットされて手持ちにされている私も、ここが生活拠点になるわけで、

「……ボックスに送ってくれません?ここ寒いんですけど」

私は与えられた毛布にくるまってガタガタと震えていた。

ボールの中は嫌いだし、ボックスに送られた後の事なんて、どうなるかわからない。けど、こんなところにいるよりかマシだ。
何度そう同じ文句を言った事だろう。

「…………」

そしてその度、レッドは私よりも大きなその体で私をすっぽりと抱き締めて、優しく撫でるのだ。

ポケモン扱いするな。と怒りはするが、寒いのでその腕からは逃れられない。


***



そんなこんなで雪山暮らしをしていたある日。
一匹のピジョトが大空から舞降りて来た。
その背には茶髪の青年が乗っていて、降りて来ると、ピカチュウをブラッシングしていたレッドのもとへとやってきた。

「なぁなぁ。お前変ったゴルバット捕まえたろ?見せてくれよ」

レッドの幼馴染みグリーンと言うらしい。
彼は度々やって来ては、雪山に引き籠もっているレッドに差し入れを持って来ているという。

変ったゴルバットと聞いて、レッドは私に顔を向けた。

「え、こいつポケモンなのか?てっきりお前にポケモンバトルを挑みにやってきたチャレンジャーかと」

無口なレッドとは対称的なグリーンさんを見て、一瞬、彼が幼馴染みであることを意外に思ったが、正反対だからこそ上手くいくのだろうと納得した。

納得したところで、私は人当たりがよさそうな彼に答えた。

「私は人間です」
「違う。俺のゴルバット」

こんな時ばっかり素早く答えるレッドを無視して、私はグリーンさんに事情を説明した。


***


「へぇ。まんじゅうでポケモンにされるなんてついてないよな」
「全くです」

にわかに信じられないという顔をしていたが、私の牙と翼が本物で、図鑑にしっかり反応するのを見て納得したらしい。

「にしても本当に翼なんだよな?ちょっと触ってみても良いか?」

好奇心いっぱいのキラキラした目に負けて、許可しようと口を開こうとしたら、それより先に否定の声が割り込んだ。

「駄目」

グイッと腕を引っ張られグリーンさんから離される。
背に当たったのはレッドの胸板だった。

「おいケチケチすんなよ。少し触るくらい良いじゃねーか」
「駄目」

一歩も引かないレッドに呆れる。
グリーンは何を思ったか、暫く黙ると、真剣な顔になり、レッドに提案した。

「……なぁ、お前暫くこいつを俺の所に預けねぇ?」
「駄目」

だが、それも即切り捨て。

「……あのなぁ。今のこいつはわかんないことだらけだろ?何かあった時ジョウイさんで事足りるとは限らねぇだろ?暫くポケモン研究所で調べてもらえって言ってんだ」

確かに今の私はポケモンか人間か訳の分からない状態だ。調べてもらった方が良いかもしれない。でも、

「実験ネズミ……なんて事にならない?」
「んな事するか」

レッドをチラッと見ると何やら考えているらしい。
私としては雪山とおさらばできるなら、喜んで賛成したい。しかし、残念な事に決めるのは私ではなく、トレーナーのレッドだ。
許可してくれないかなぁ。と様子をうかがっていると、痺れを切らしたのか、グリーンさんが口を開いた。

「ついでにお前も下山して、いい加減親に顔見せにこい。それが嫌なら、俺がこいつを預かる」

私に伸びてきたグリーンさんの手に、電撃が当たる。
足下に控えていたピカチュウが放ったものだ。
彼は手を引っ込めたものの、割りと平気な顔をしている。慣れているのかもしれない。

「…………仕方ない」

そう言って、レッドはリザードンを放った。


***


下山が決まると、グリーンはピジョトに、レッドはリザードンの背に乗った。

「……おいで」

そう自分に差し出されたレッドの手を黙って見つめる。
リザードンの背に乗れということらしい。
私は嫌いだが、ボールに入れておけば荷物にならないだろうにと、リザードンを見る。
ボールに戻せと言っても無駄だろう。
どうやらレッドは、私を懐かせようとしているらしいから。

フン。誰が懐くもんですか。

私は自分の翼を広げて、真っ先に空へと舞い上がった。




「…………なかなか懐かない」
「てか、嫌われてんじゃね?」



下を見下ろせば、ピカチュウがピジョトに電撃を放っていた。
しかし、ピジョトは難なく交わして舞い上がり、私のもとまでやってきた。

「お前さ。レッドになんかされたのか?」

私の横に並んだグリーンが聞いてきた。

「姿が変ってテンパってる時に、いきなり容赦なくバトルしかけられて、ギッタギタにされて、人間だって言ってるのに、いつまでもポケモン扱いで……」
「……あぁ、まぁ、悪いヤツじゃないんだ。ちょっと普通じゃないだけで」

ちょっと?かなりの間違いじゃない?

まだ下にいる話題の主を見れば……、

「カミナリ、きますよ」
「……マジかよ」

ゴルバット、ピジョト、ともに電気には弱い。

道案内はグリーンさんに任せて、すぐさまその場を離れた。

「よく幼馴染みやってられますね」

そう聞けば、思いの他優しい笑みが返ってきた。


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