暇つぶしにレッド団
R(レッド)団とかどうよ?
レッドさんがシロガネ山から下山して、早1ヶ月。
それだけあれば、一度負けた挑戦者にリベンジするなんて、伝説と謳われる彼には簡単で、
「……暇だ」
現在、トキワジムのジムリーダー席に勝手に腰を降ろし、隣にコテンパンに負かし済のジムリーダーのグリーンさんを従えて、彼はそう物申した。
「……あのな。それがバトルに勝ったヤツの台詞かよ」
「……まだいたの?」
「ここは俺のジムだっつーの!」
そんな彼らのやり取りを、トキワジムのジムトレーナーである私は、生暖かい目で見守る。
「いいじゃないですか。こうしてレッドさんが下山してくれたんですから」
そうやってリーダーのグリーンさんを慰めると、
「……暇だし、シロガネ山に帰ろうかな」
なんて意地悪なことをレッドさんが言うのはいつものこと。
「お前の家はマサラタウンだろ!」
たぶんムキになるリーダーを見るのが楽しいんだと思う。
「ジムなら挑戦者とか来ると思ったのに……全然来ないし」
「お前のせいだろ!」
「……退屈」
「俺が相手してやってるじゃん!」
「すぐ勝っちゃたし」
初めて二人のやり取りを見た時と、全然変らない。
普段、大人に見えるリーダーが、レッドさんの前では可愛らしい苛められっ子に見える。
「うぅ……なぁ。アイツ酷くね?酷くね?」
半泣きで私に慰められにやって来る彼にも、もう慣れた。
私は彼を抱き寄せ、あやすように背を撫でてやった。
そりゃ、最初は「あの冷静かつクールなリーダーが……!」とかビックリしちゃったけど、今は他のジムトレーナー共々、そんなリーダーも素敵だなって思ってる。
頻繁にジムを留守にしちゃう上に俺様なリーダーだけど、なんだかんだ言って、みんなグリーンさんを愛してる。このジムにはグリーン馬鹿しかいないのだ。
「……暇。ピカチュウ10万ボルト」
その一言にリーダーがビクリと体を震わせる。
その様子に胸キュンした私は、彼を庇うように強く抱き締めた。
しかし、私達の元に電気は届かなかった。
レッドと私達の間に横たわる二体の黒い影。
私と同じジムトレーナーの二人だ。
「お前ら!?」
無惨な姿になった二人にリーダーが駆け寄った。
「……ご無事ですかリーダー」
「俺達はいつまでも、リーダーのことを……ガクッ」
美しい部下の愛に私はホロリと涙する。
「そ、そんな……お前ら」
「……リーダー、そこは名前で呼ぶとこですよ」
「そうですよ。感動半減じゃないですか」
「え……だって俺、お前らの名前なんて覚えてねーもん」
台無しだ。色々と台無しだ。
「……そうですよね。俺達の扱いって、そんなもんですよね」
「大丈夫です。そんなリーダーも素敵です」
あぁ……別の意味で涙が……。
「……鬱陶しい。大体、ピカチュウだって手加減してるし」
私達の様子を見てられない、と吐き捨てるようにレッドさんは言った。
黒焦げの二人は「いや、確かに大丈夫なんだけど」と言ってヨロヨロと立ち上がる。
「ほら」
「いえいえよく見て下さいレッドさん。あれは頻繁にピカチュウの電撃食らって、耐久がついたんですよ」
「あ、そ」
……興味なしですか。そうですか。
「あー……暇。大体ロケット団も根性ないよね。再結成するとか言ったくせに、簡単に終わっちゃて。……俺、暇」
早々と解散して良かったねと、私は心からそう思った。
「いっそレッド団とか作ればいいんじゃないですか?」
冗談まじりにそう言えば、
「あぁ、それ良いね」
なんて返ってきた。
……え。
「暇だし、世界征服とかしてみようかな」
どうしよう。暇潰しで世界征服されそうです。