暇つぶしにレッド団

活動どうするんです?


「なぁ、R(レッド)団って、具体的に何すんだ?」

トキワジムにて腹ごしらえができた私達は、これからの活動について頭を悩ませていた。

「集まったメンツがスゲーからな。しょぼい事はできねーな」

リーダーのグリーンさんは、入団したメンバーのリストを見て苦笑した。
前回同様、レッドさんはトキワのジムリーダー席で足を組んでいます。その姿は立派な頭ですね。

「…………どうするの?」

わ、私に聞くんですかレッドさん。
呆気にとられて妙な顔をしていると、帽子のツバでできている影が一層濃くなった気がした。
いや、実際濃くなった。加えて、彼の怖いくらい赤い瞳がギラリと光った。

「R(レッド)団作れって言ったのでしょ。……無責任」

地を這うように低く響く声に、私は身震いした。

記憶違いですレッドさん。「作れ」だなんて命令形、恐ろしくて口にできませんよ。すすめたつもりもありません。あの言葉は、ほんの冗談だったんです。

「…………で?」

そんな事、今言える状態じゃなくて……ハイ、意見ですよね。

「世界的にビッグな事、とか……」
「……だから、具体的に何?」

それを、頂点の貴方が、一介ジムトレーナーである私に聞くんですか?
と、口に出そうになったのをなんとか押し止どめる。

「あ、そうだレッドさん。私達だけじゃなくて、世界規模で何か我が儘言ってみてください」
「……つまり、俺は日頃達に対して我が儘だって?」

あわわわ。そんなこと言ってません。……けど、そういう事になりますよね。……しまった。

「事実、テメェは我が儘だろ」

どうしようとワタワタしていたら、リーダーが加勢してくれました。
大変嬉しいんですが、そんなこと言ったら……
恐る恐るレッドさんを見ると、いつもと変らない無表情でぽつりと一言。

「……ピカチュウ」

危険を察知した私は急いでレッドさんとリーダーの間に入った。
そこから先は聞かなくてもわかります。わかりますから聞かせないで下さい。

「あわわわ!レッドさん!とにかく何かビッグな我が儘をどうぞ!」

とにかく、レッドさんの思考を別に持っていかないと危険です。

「…………」

リーダーを睨んでいたレッドさんですが、なんとか思考を我が儘を考える事に持っていってくれました。

暫く、その様子を黙って見守っていると……、

「……世界中の」

世界中の?
どんな我が儘を言うのだろうと、緊張した面持ちでリーダーとともにその言葉の続きを待ちました。

「……世界中のピカチュウは、俺のモノ」



…………しん



沈黙が降りました。


私とリーダーはレッドさんから目を離せないまま、

(……ここ笑うとこか?)
(……ど、どうでしょう?)

互いに場の空気読み解こうと必死です。

「……何、黙ってんの?」

私達が何も言わず黙っているのに気を悪くしたのか、レッドさんはイライラしています。

(……ここは、笑ったら駄目です!)
(分かってる!……分かってるが……)

抜群の攻撃力を誇るレッドさんの睨みですが、ほんのり赤くなった頬が可愛いらしくて……、

「ぷっ」
「り、リーダー!」
「だって、おっかしーだろ?あれだけ傍若無人のレッド様が、なんつー可愛らしい我が儘……」

リーダーはお腹を抱えてうずくまると、床をダンダンと叩き出しました。

「……ピカチュウ、カミナリ」



今日もトキワジムには雷警報が出ています。
近隣の方々は感電にご注意下さい。





その後、濃すぎるR(レッド)団のメンバーを使って、レッドさんの世界的にビッグで可愛らしい我が儘を叶えるための活動が始まったわけですが……、



ミニスカート「……えっ!あのレッドさんにピカチュウ育てて貰えるの?」

ピクニックガール「きゃー!レッドさんとお近付きになれちゃうなんて素敵!」

野生ピカチュウ『ピカピカチュウ!(あの伝説のポケモンになれるなんて!)』

トレーナー持ちピカチュウ『ピッカーピカピカチュウ(最近、構ってくれないし、レッドさんのポケモンになりたいなー。よし、家出しよう)』

ライチュウ『チャアー……(進化系は駄目かなぁ……)』


結果。

話を聞いたトレーナーが喜んで差し出して来たり、ピカチュウ自らやって来たりして……



2009年 ▲月

伝説のトレーナー、レッドの一言により、ピカチュウの生息地がトキワシティのみとなる。

また、緑溢れる町とされるトキワシティは、電気溢れる黄色の町に変更され、ジムバッチはピカチュウバッチに作り代えられる。

こうして、世界中のピカチュウが姿を消したのである。

《完》



「……ってなんのはヤバいだろ」
「…………?」

既にジムいっぱいに集められたピカチュウに、レッドさんは実に幸せそうに埋もれています。
因みに、私とリーダーは部屋の角によって、何とか黄色の波に呑まれないようにしています。

……これだけのピカチュウが電気を放ったら……町ごと消えてなくなるんじゃないでしょうか?

隣にいるリーダーも同じような事を考えていたらしく、

「……ほら、こんなにピカチュウいたらお前の相棒が可哀想じゃねーか」

リーダー、ナイスです。
相手を刺激しないで、かつ効果的な言葉ですね。

「……それも、そうか」


思ったよりも呆気なく『全ピカチュウ、レッドのモノ計画』は幕を閉じました。


「……後始末よろしく」
「はぁ!?」


否、幕を閉じるのはここに集められたピカチュウを戻してからのようです。



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